表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱レイドボス『アシュラ』に転生した俺、討伐対象になったけど人類を滅ぼす気はないんだが?  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第1部 雷帝編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/24

第11話 さよなら雷帝

 転生してから約一ヶ月が経った。今日も迷宮の朝は静かで……とはいかなかった。


「フッハハハハハハッ!! 我が雷よ、湯と混ざりて輝けェェッ!!」


「またお前かッ!!」


 俺は思わず三方向同時に叫んだ。魔導スクリーンに映る迷宮第三層、アシュラ温泉。そこに雷帝ゼウが仁王立ちで湯に浸かっていた。


「おい、ガイア。観光客ルートと玉座ルートで分けたんだよな? なんでジジイが温泉エリアに居るんだよ」


「妨害スキルやトラップを突破されました。ゼウ様を止めることは現状の設備では不可能です」


 無駄に能力がありやがるな。


 ゼウを見ると、温泉に浸かるたびにバチバチバチ音がして、湯が光っている。


「これが雷風呂じゃあ!!」


「やめろ! 他の奴が感電したらどうする!」


 俺がブチギレていると、ナビビ92号がゼウに近づいていた。


「温泉では静かに入浴してくださいッ!」


「だが入浴客には大人気だ。このビリビリが気持ちいいと、ゼウの湯として一部界隈(かいわい)で好評だぞ?」


 迷惑客って話きかねぇよな。


 そんな彼が湯から上がると、湯気を(まと)って俺の玉座へと再び現れた。完全にルート把握されてんじゃねぇか。


「アシュラよ。今日こそ決着をつけよう」


「めんどくせー。スキルポイントとかダンジョンポイントくれるから戦うけどさぁ、せめて変なウワサを広めるの辞めてくれない?」


「その通り。私の好きなものはコーンフレークだ」


 相変わらず会話不可である。せめてガイアが仲介してくれたらなぁ。当のクソ精霊は『緑髪の魔女』と言われて以来、ゼウがいる間はどこかに消えている。いや、恐らく温泉の湯もみでもしに行っているのだろう。ダメだこりゃ。


「行くぞ——」


 雷を(まと)う剣。全身から立ち昇る蒸気。火照(ほて)った髭面(ひげづら)


 温泉でスッキリしてんじゃねぇぞ。


 だが、ゼウは真剣そのものだった。


「いざ参る」


 ゼウの雷撃は以前よりも鋭かった。おそらく、温泉による回復&魔力増幅が効いているのだろう。


「喰らえ! 《雷連刃(らいれんじん)雷断(らいだん)》!!」


「うおっ、まぶしっ!」


 瞬間、六本の腕でガードを組む。雷が弾け、部屋中が白光に包まれた。だが。


「面白い技だ。だけど」


 俺の顔は三つあり、目が六つある。そう簡単に全ての視界を奪うことはできない。


 ゼウが突進してくるのを(とら)える。俺の第三右腕がその進路を()らし、第二左腕が胴を打ち、第一右腕でゼウの剣を奪った。


「ぐ……っ……!」


「悪いがお前はもう俺には勝てないだろうな。発展途上の俺と、剣を極めたが衰退(すいたい)期に入っている老人じゃ戦いにならない」


 玉座から出られないため大部分のリソースを戦闘関連に割いてきた。ゆえにもう初戦のようにパニックにならないし、雑魚には負けない。


 ゼウはNPCの中で強い設定ではあった。しかし、NPCというのはプレイヤーに華を持たせなければならないため戦闘に参加すると大体弱い。


 HP四桁しかない俺を倒せない時点で分かっていたことだ。


「これが最後、負けるわけにはいかんのだ……!」


 最後? それは助かるけど、どういうことだ?


 俺が疑問符を浮かべていると、ゼウが立ち上がる。その目は死んでいない。


「《雷剣創生(らいけんそうせい)》!」


 直後、雷でできているであろう二本の剣が現れた。


「雷帝奥義! 《穿雷突(せんらいとつ)》!」


 まるで落雷が凝縮されたような一点集中の突き。斬撃というより雷の(くい)そのものが迫ってくる。


 俺はギリギリまで待ち、中央の顔を天井へ向けて(にら)む。


「《視線誘導》!」


 ゼウの視線が釣られた、ほんの一瞬。その隙に——


「《足場生成》!」


 浮かび上がった魔法陣を左足で蹴り、跳躍。


 ゼウの突進が(むな)しく空を裂く。


「《武器召喚》・雷斬仕様」


 六本の手に黒銀の剣が一斉に現れる。刃には雷を吸収・分散する魔紋。前回使ったスキル《魔力干渉障壁》の応用で、それを剣に刻んでおいた。用意しておいて正解だったな。


「《連環・多重撃》・剣型、展開!」


 空中で六本の腕が縦横無尽に剣を振る。斜め上、真横、背面からと、複雑な角度で斬撃が交差し、雷を断つ。


「なっ……!?」


 ゼウの雷が削られる。だが彼は叫んだ。


「雷帝奥義! 《鳴動輪雷(めいどうりんらい)》!」


 彼の体が中心となり、雷が輪のように周囲へ拡散した。攻撃と防御を兼ねた広域雷撃。


 剣だけでは防ぎきれない! ならば!


「《空撃掌(くうげきしょう)》・散弾型!」


 六本の手のひらから放たれた衝撃波をぶつける。雷輪と衝撃波がぶつかり合い、迷宮中に振動が走る。


 俺の第三右腕が《空撃掌》・直打ち型を至近距離から放つ。


 しかしゼウは耐えていた。


「ぐ……ぬぅ……! だがまだ終わらん!」


 彼の目が光る。


「雷帝奥義! 《雷紋刻界(らいもんこっかい)》!!」


 奥義多すぎだろ、と突っ込むまもなく地面に無数の雷紋が走る。足場ごと雷に飲まれる封印型スキルだ。反撃を防ぐ布石か?


 だが、それも見切っていた。


「《足場生成》・上昇連結型」


 空中に足場を重ね、三段ステップで上昇。雷紋地帯を脱出。


「《視線誘導》——再展開」


 今度は床の崩れに視線を誘導。ゼウの意識がまた()れた。その瞬間。


「《空撃掌(くうげきしょう)》・一点集中型」


 ゼウの体へ、風圧の一撃を叩き込む!


「ぬっ——が……ッ!」


 ゼウの体が吹き飛び、地面に転がった。雷剣が手から滑り落ちる。


(しま)いだな」


 俺はゆっくりと地上に降り立った。足場魔法が解け、魔力の光が霧散していく。


 ゼウの身体から雷光がふわりと浮かんで消えた。


 俺は六本の腕をすべて下げると、崩れかけたゼウの体をそっと抱えて寝かせた。


「ぐぬぬ……! 敗北、か……」


 ゼウは悔しがりながら、スッと目を閉じた。


「……私は今日限りで、“雷帝”を名乗るのをやめる。名もなき放浪者として、雷の在り()を探す旅に出よう」


「急に主人公のライバルみたいなこと言い出すな。ただの慰安旅行だろ」


 そこへ、ガイアがふわりと現れる。


「では、ゼウ様。旅に出る前に一つだけ。……ご家族はどうされるんですか?」


 ガイアが喋った! 最後だからサービスで話してくれるのかな?


「…………」


 ゼウの(まぶた)がうっすら開く。


「……離婚したから問題ない」


「あ……」


 気まずい。


「旅に出る自由と、家族との生活は両立できなかった。冒険者という生き方を妻と娘は受け入れられなかったのだ」


 多分だけど離婚は時間の問題だったよな。最後のキッカケが冒険者という名の浮浪者になることだっただけでさ。


 少し回復したゼウは立ち上がり、手ぶらで玉座の間を後にする。


「さらばだ、残酷王アシュラよ。私の雷が再び火を灯すその時まで……」


「もう二度と来るなよ」


「最後に……貴様は強者を求めていると言ったな」


「いや、言ってない」


 強者なんて転生してこの方一度たりとも言ったことないと思う。


「安心しろ。旅先で貴様の悪名を広めておいてやる。これでここに強者が集うだろう」


「や、やめろ! 余計なことすんな!!」


 俺が叫ぶも、雷帝は笑うだけ。


「ふっ、相当嬉しいようだな」


 嬉しくねぇよ!! 勘違いすんな!!


「さらば! アシュラよ! 温泉よ!」


「ガイア! バカ電気ジジイを止めてくれ!」


「……残念ですがもう行ってしまいました」


 ゼウは気づいたら目の前から消えていた。逃げ足はえーよ。万年中二病だから雷って好きだったけど、今日から雷属性のアンチになるわ。


 で。


 雷帝ゼウが去った後。玉座の間に静寂が戻った。


 ガイアがぽつりとつぶやく。


「彼の旅立ちが再起の一歩となることを祈りましょう」


「絶対ヤダ」


 その夜、アシュラ温泉では【雷帝追悼記念・雷風呂感謝祭】が“勝手に”開催された。どうやら雷風呂は結構人気だったようでプスプス達を中心に信者が多数いたらしい。


 そして感謝祭の最後には、とあることが発表された。


◆◆◆


雷帝グッズ販売決定!

第一弾は「びりびり湯あがりフェイスタオル」(プスプス製)!

さらに温泉エリア【雷帝の間】が常設決定!


◆◆◆


「くだらねぇもの作ってんじゃねぇ!」


 俺は静かに玉座の影で笑うしかなかった。



【第1部 雷帝編】 —終—

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ