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最弱レイドボス『アシュラ』に転生した俺、討伐対象になったけど人類を滅ぼす気はないんだが?  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第1部 雷帝編

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第10話 温泉

「アシュラ様ァーー! たいへんですたいへんですぅぅぅ!!」


 朝。玉座の間でウトウトしていた俺の耳にナビビ92号の絶叫が突き刺さる。


「……何だ。ゼウがまた来たのか?」


「違いますッ! 今度は……プスプス族が温泉を掘り当てましたァァ!!」


「……は?」


 状況はこうだ。迷宮第三層のさらに下、プスプス族が自動通気換気穴を掘っていたところ突如として熱水が噴出。それは魔力を含んだ地熱水、つまり温泉だった。


「やったぁ~! アッツイお湯プス~!」

「気持ちいい~プス~!」

「休憩所できたなプス! 完全勝利だプス!」


 プスプス族はその瞬間から、施工班から温泉利用班(またの名をサボりクソ野郎の集まり)へと転身。迷宮の一角がまさかの日帰りスパと化していた。


「お前ら仕事は!? 迷路の第五区画まだ作成中だよな!?」


 俺は慌てて魔導スクリーン越しにプスプス達へ声を掛けた。


「いや~、もう一段掘ったら湧いちゃったんでプス~、ちょっと湯治(とうじ)ってことでプス~」

「腰にくるんすよぉ……石材運び……プスゥ」

「効くなあこの湯。芯からあったまるプス」


 呑気(のんき)かよ。


 俺は三つの顔で三倍の哀れみを表現した。六本の腕をブンブン振り回して一匹ずつ殴りたいところだがこの部屋から出られない。魔導スクリーン越しに指を(くわ)えて見るしかできない。


 絶望していると、遅めの出勤のガイアが現れた。


「……なあ、ガイア。これ、契約違反にならねぇのか?」


「残念ながら労働精霊の休憩は【業務効率向上のための自己裁量行動】として合法です」


「なんだそのホワイトすぎる条文!!」


 俺も精霊に生まれたかったよ!


「あ、源泉の命名も終わったようですよ」


「名前?」


 ガイアがウィンドウに浮かべた文字は——


 《残酷王アシュラ源泉 郷の湯》。


「うわー、観光地の温泉みたいだぁ……じゃねぇ! 勝手なことするなよ!」


「ちなみにこの温泉、ただのリラクゼーションではなく、温泉成分の魔力泉核により、MP回復速度が1.3倍になります」


「おお! それはちょっと嬉しい……! じゃなかった、俺入れねぇよ!」


「ただし、怠惰(たいだ)係数も上昇します」


「なにそれ?」


「噛み砕いて言うと、浸かり過ぎると(なま)け者になるということです」


「……ちょっとマズイか?」


「現在のプスプス族の怠惰(たいだ)係数、今朝の計測で230%増です」


「早く叩き出せ!」


 俺が慌てていると——


「アシュラ様ぁぁぁ!!」


 ナビビ92号が俺の顔の前を飛び回っていた。さっきからうるさい。そしてなぜか汗をかいている。


「どうした? まだなんかあるのか?」


「ボク、温泉区画に案内行ったんですけど……」


「うんうん、で?」


「そしたら逆に案内されたんですッ! タオル渡されて、強制入浴ッ!!」


「ふぅん、誰に?」


「ガイア様です!」


 ……え? 俺がガイアに視線を送る。その瞬間、彼女は首がもげるんじゃないかと思うほどの速度で顔を俺から見えないように()らした。


 彼女の木の葉を束ねたようなドレスから伸びる手足が赤く火照(ほて)っている。それはまるで風呂上がりのようで——。


「ガイアさ、もしかして温泉入ってきた?」


「……いいえ」


「でも体の血行よくなってそうだけど」


「それセクハラですよ」


 くそ、最強のカードを切ってきやがった。追及しづらい。


 俺が、ぐぬぬという顔を三方向に向けていると、92号がおしゃべりを再開する。


「ガイア様ったら、『肩まで浸かれ』とか『タオルを湯に浸けるな』とか命令してくるんですッ! ボク、案内精霊なのに逆に指摘されてビックリなんですけどッ!!」


 再びガイアに視線を送ると、彼女は92号を見て難色を示していた。その顔してぇのは俺の方だよ。


「でも勤務時間外ならいいか。ガイアも休みたいよな」


「いえッ、9時以降も入ってましたよッ! 少しくらい遅刻してもバレないとか言って!」


「…………」


 ガイアに、じっとりとした視線を送る。その視線に彼女はニッコリと微笑(ほほえ)んだ。


「よーし、今日は一時間くらい残業しちゃいます!」


 クールな彼女に似つかわしくないぶりっ子ポーズを取っている。


 かわいいけど、俺は結構根に持つタイプだからな。覚えとけよ。


 俺が三つの眉間を押さえながら、考える人のポーズをとって(なげ)いていると、ガイアがとんでもないことを喋り出した。


「ちなみにですが、町の方でも『アシュラ様が温泉を開いた』と話題です」


 その報告に俺は玉座から転げ落ちた。


「いや、情報漏洩(ろうえい)早過ぎるだろ! またゼウか!?」


「いいえ、ナビビ族が観光客誘致(ゆうち)のためダンジョンの外で宣伝しているせいです」


「はぁ!? 精霊界のコンプラどうなってんの!?」


 俺の右側の顔が泡を吹いている。顔が三つなければ気絶していただろう。危なかった。


 俺の気も知らず、ガイアが報告を続ける。


「周辺の村では子どもたちが温泉に入りたいと、ちょっとした騒ぎになっています」


「うーん……観光客でポイント稼げるんだろ? だったら一般人入れてもいいかもな」


「観光ルートと玉座ルートを作成し、モンスターや討伐者を完全隔離可能です。実行しますか?」


「ああ頼む」


 スローライフするためには人畜無害をアピールしていかないとな。


「それから最後の報告です。温泉は静電気に効くというウワサが出回っています」


 ふーん、それぐらいなら問題なさそ——いや待て。


「雷帝ゼウ特効じゃねぇか! そのウワサどうにか消してくれ! あいつ絶対来るぞ!」


 ガイアは首を横に振った。まぁ無理ですよねー。あのおしゃべり静電気ジジイを止めるには雷よりも早く動かなくてはならないだろう。


 ……もうダメだ。温泉ひとつで問題起きすぎ。


 それからバタバタしていると、あっという間に夕刻になった。


 プスプス族は一匹三十分までというルールを守りながら、温泉に入って「フーッ」だの「ハァ~」だの満足そうな声を漏らしていた。


 ガイアも次々と舞い込む湯けむりレポートに疲れたのか、玉座の角に設置された簡易ウィンドウ支柱で休憩している。


 ナビビ92号は温泉区画で湿気た体を乾かすために周囲を飛び回っている。


 コイツら見てるとなんか(むな)しくなってきた。


「……俺、何のために生きてるんだっけ」


 そうだ、スローライフが目的だった。それは今、俺以外の全員が謳歌(おうか)している。


「出られるようになっても俺の居場所あるのかな……」


 なんか勝手に物事が進行しているし、出られる頃には俺の手に負えなくなってそう。


 そんなことを考えながら、俺は今日も玉座で一人ぼーっとしていた。

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