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あの世の女子会 ~死んだ元カノと妻たちの井戸端会議~

掲載日:2025/12/27

会話メインの短編ですので、なんとなくこんなキャラたちを想像して読んでいただければ幸いです。


【登場人物】

●サクラ

 ふわふわロングヘア。マイペースな天然さん。

●リン

 ショートカット。この集まりの常識人&ツッコミ役。

美央みお

 派手なドレス姿。自称17歳。愛が重すぎて彼氏に引かれ気味。

由香利ゆかり

 着物姿。おっとりした働き者。旦那さんを一途に愛している。

●管理人

 神々しい天使の翼を持つ男性。でも服はVネックシャツ。


それでは、あの世の井戸端会議をお楽しみください!

「ふう~、やっと霊界に着いた」


 どこまでも広がる白い空間に、安堵のため息が響く。

 ここは現世とあの世の狭間にある休憩所のような場所。今日も今日とて、死んだ女たちの井戸端会議が開かれようとしていた。


「あっ! リンさん! 今日はいいお天気ですね」


 ふわふわとしたロングヘアの女性、サクラが空を見上げて微笑んだ。


「こっちの世界に天気とか関係あるの?」


 冷静にツッコミを入れたのは、ショートカットのリン。彼女はこの集まりの常識人枠だ。


「あ、そうでした。でも何となく明るい感じがしません?」


「サクラって相変わらずマイペースよね。で、今日はどうだったの? 旦那さんの様子は」


 サクラは嬉しそうに報告を始めた。


「今日も元気そうでした! お弁当もちゃんと食べてたし、頑張って生きてました!」


「いいなあ、ちゃんと見守ってあげれて……」


 横から羨ましそうな声を上げたのは、派手なドレス姿の美央。自称17歳の彼女は、いつも不満げな顔をしている。


「あっ! 美央さん、こんにちわ」


「私の彼なんて、得意先の受付の女をナンパしてんのよ! ずっと見守ってあげてる私の気持ちも察して欲しいわ!」


 美央がキーキーと喚く。


「あんたのは見守ってるんじゃなくて、彼氏の新しい人生の邪魔をしてるだけじゃん!」


 リンが呆れたように言うが、美央は引かない。


「邪魔じゃないわよ! 正当な抗議よ! いつもカラオケに行くと、『一生一緒に居てくれや』って歌ってたもの!」


「それ誰の歌?」


「知らないけど、いつも私の為に歌ってたもん!」


「あんたの為じゃなくて、ただその歌が好きだっただけじゃ無いの?」


「違いま~す! 私の為でした~!」


「このメンヘラ女! まじでムカつく!」


 二人のやり取りを見て、サクラが「あはは」と笑う。いつもの光景だ。




「あ! そういえば、この前佐藤さんがお嫁さんのことで悩んでるって聞いたよ」


 サクラが新しい話題を振った。


「ああ、息子の結婚相手がどうこう言ってたね」


「分かる分かる! 例え息子だったとしても、他の女に取られるのって腹立つのよね」


 美央が深く同意する。


「あんたと一緒にしないでよ! 佐藤さんの場合はお嫁さんが子供が出来ないって悩んでる事に悩んでるのよ!」


「人の悩みに悩んでても自分では解決できないじゃん!」


「たまに確信を突いて来るお前の正論が、さらに私をイラつかせる……」


 リンが頭を抱えていると、サクラが周囲を見渡した。


「あ、由香利さんがいないよ?」


「また現世に行ってるのかな?」


「最近多いよね」


「由香利さんって本当に働き者よね」


 噂をしていると、向こうから着物姿の女性、由香利が歩いてきた。


「ただいま~」


「お帰りなさい、由香利さん。また旦那さんのところ?」


 リンが尋ねると、由香利は少し困ったように笑った。


「また私の写真を見て泣いちゃってたからさ~。泣いてる旦那も可愛いんだけど、あの人って私を思い出して落ち込むと長いのよね」


「で、また思い出の記憶を?」


「少しだけね」


 由香利はそう言うと、遠い目をした。


「泣いてくれるのは嬉しいんだけど、新しい人でも見つけて早く笑って生きて欲しいなって」


「由香利さんって本当に優しいですね」


 サクラが感心する一方で、美央は信じられないという顔をした。


「私には真似できないわ! そんなの絶対嫌!」


「でもこのままだと、私との思い出が全部なくなっちゃう……複雑なのよ」


「まあ、由香利さんらしいけどね」


 しんみりした空気が流れたその時、美央が突然叫んだ。


「あーーー! ちょっと! 早く行かなきゃ!」


「美央? また現世に行くの?」


「彼がデートしてるって情報が入った!」


「入ったって、あんたがここから監視してデートしてるのを見つけただけじゃん」


「また邪魔しに行くの?」


「当然よ! 管理人さーん!」


 美央が大声で呼ぶと、背中に大きな白い翼を生やした男性――通称「管理人」が現れた。神々しい天使の姿をしているが、なぜか服はラフなVネックシャツだ。


「は~い。なんですか~」


「現世がピンチなんで許可証お願いします!」


「ちょっと待ってくださいね。美央さんの善行ポイント確認しますね」


 管理人は手元のタブレットを操作し、眉をひそめた。


「あー、やっぱり。美央さんは善行ポイントが全然足りてないですよ。許可書の発行はできませんね」


「え〜! そんなの聞いてない!」


「規則ですから……善行ポイントが貯まるまで現世派遣は停止です」


「そんな! 彼がデートしてるのに!」


「自業自得でしょ」


 リンが冷たく言い放つ。


「リンちゃん! お願い! あんたは現世に用がないんだから、善行ポイント1回分譲って!」


「は? なんで私が?」


「お願いします! 今度何かお返しするから! どうせ会いに行く人なんて誰も居ないんだから、1回分くらい良いじゃん!」


「お前……こっちの世界でもう1回死ぬか?」


 リンのこめかみに青筋が浮かぶ。


「ひどい!」


「まあまあ、二人とも」


 サクラが仲裁に入る中、管理人は淡々と告げた。


「とにかく美央さんは善行ポイントを貯めてください」


「うぅ~、彼氏が彼氏じゃなくなっちゃうよ~。壊れるほど愛しても、霊体だから三分の一も伝わらない~」


「美央……お前は本当は何歳なんだよ!」


「17歳!」


「嘘つけ! 昭和生まれ感が半端ないんだよ!」




「あ! やばい!」


 今度は由香利が声を上げた。


「どうしたの、由香利さん?」


「あの人、晩酌しながらアルバムを見始めちゃった! ……それはまずいわね。あの人、お酒が入ると余計に感情的になるのよ。管理人さん! 緊急申請お願いします!」


「はいはい、分かりました。緊急事態ですね」


 管理人はすぐに許可を出した。由香利は善行ポイントがたっぷり貯まっているのだ。


「えーっと、このアルバムの中であの人が一番泣いちゃいそうなのは新婚旅行の写真ね。ごめんね……でもあなたには幸せになって欲しいから。じゃぁ行ってくるね」


 由香利は光に包まれて消えていった。


「いいなあ、由香利さんは善行ポイント足りてて」


 美央が恨めしそうに見送る。


「ねえ、善行ポイントって何すればもらえるの?」


「普通に良いことすればいいんじゃない?」


「良いことって? 困ってる人を助けるとか?」


「彼を悪い女から救うのは善行よね!」


「それは善行じゃなくて妨害だろ!」


「愛の形よ!」


「美央さんは霊界のゴミ拾いとかから始めてください」


 管理人が天使の笑顔で真顔の提案をする。


「えー、地味すぎる」


 そんな話をしていると、由香利がすぐに戻ってきた。


「ふう、何とか間に合いました。お酒が入る前に思い出消去できて良かった」


「お疲れ様でした」


「おかえりなさ~い」


 四人が揃ったところで、またお喋りが再開する。


「そういえば、さっき戻ってくる時に聞いたんだけど、伊藤さんの息子さんやっと就職が決まったんですって」


「良かったじゃない。何歳になったっけ?」


「35歳よ。ずっと心配してたから伊藤さんも安心してたわ」


「向こうの山田さんも息子さんが結婚して、お嫁さんとの関係で悩んでるって言ってた」


「息子が結婚したならめでたい事じゃん」


「なんか、残してきた旦那がお嫁さんにデレデレで、見てて恥ずかしくなるんだって」


「あはははは」


「この前、あまりにもお嫁さんに優しいから、そっと枕元に自分の若い時の写真を置いて来たらしい」


「こわっ! 起きた時に枕元に死んだ嫁の写真とか怖すぎるって!」


「隣の鈴木さんなんて、元旦那の再婚式に出席したのよ? 信じられる?」


「えー、それはすごいね」


「でも素敵じゃないですか。きっと自分が居ないその後の人生も、幸せになって貰いたかったんですよ」


 サクラがうっとりと呟く。


「私には絶対無理! 考えただけでも腹立つ!」


「そう言うサクラはどうなの? 旦那が再婚したら喜べる?」


「う~~ん……嬉しいような、ちょっと寂しいような気がする」


「私はどっちかって言うと、新しい人生を歩んで幸せになってほしい派かな」と由香利。


「私は私の事を忘れずに生きて欲しい派」と美央。


「その気持ちもちょっとは分る気がするのが、美央に負けた気がしてムカつく派」とリン。


「あはははは、その気持ちもちょっとわかる」


 四者四様の死生観が交錯する中、管理人の声が響いた。


「皆さーん」


「ん?」


「はい? なんでしょうか?」


「第7層の松本さんから苦情が来てますよ。孫の人生の邪魔をする霊がいるって言ってま~す」


「あー、多分それ私かも」


 美央が悪びれもせずに手を挙げた。


「美央さん! 善行ポイント減らしますよ?」


「でも、もう私の彼氏と別れたみたいだから大丈夫って伝えておいて~」


「……管理人さんも大変ですね」


「最近現世派遣の申請が多くて大変ですよ」


 管理人はバサリと翼をたたんで、やれやれと肩をすくめた。


「善行ポイント制度を導入したのも、みなさんに少しでも良いことをする為に現世に行って欲しかったんですけどね」


「そうだったんですか」


「渡辺さんなんて娘さんの離婚で落ち込んじゃって、元旦那さんの車のタイヤをパンクさせに行ってましたからね」


「それはひどい」


「でも気持ちは分かるわ」


 美央が深く頷く。


「たまには私も現世に行ってこようかな」


 リンがぼそっと呟いた。


「え! リンちゃんが? 珍しい!」


「別に、ただの暇つぶしよ」


「リンちゃんは恋愛経験がないから、客観的に見られていいわよね」


「余計なお世話よ!」


「ねえ、その許可書私にちょうだい」


「まだ言ってるの? 自分で善行ポイント貯めなさいよ」


「ケチ〜」


「まあまあ、美央ちゃんも頑張ればすぐ貯まるわよ」


「よし! 今日は善行ポイントを貯めるわ! まずは彼を悪い女から救う!」


「だからそれは善行じゃないって!」


「美央さん、それは逆効果です。それのせいで生前に貯まっていた善行ポイントが減っているのだと思います」


「えー、なんで?」


「美央ちゃんらしいけど、もう少し普通の善行から始めた方が良いわね」


「普通って何? 老人の肩でも揉んでくれば良いの?」


「突然知らない女の霊が肩を揉んでたらそれは呪いだよ」


 リンの鋭いツッコミが炸裂したところで、管理人が手を叩いた。


「は~い、みなさ~ん。そろそろ解散して魂を休めて下さ~い」


「は~い」


 四人は声を揃えて返事をした。


「今日も一日お疲れ様でした」


「また明日ね~」


「おやすみなさい」


「おやすみ~」


 死んでもなお、女たちの日常は賑やかに続いていくのだった。


(おしまい)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

死んでもなお、たくましくお喋りする彼女たちに笑っていただけたら嬉しいです。

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