きっと悪い夢を見ていたんだ。
掲載日:2025/11/26
きっと夢を見ているんだ。
世界は酷く歪んでいて
前も後ろもわからない
空気は泥沼のように澱んでいる
風の音がどこか遠くて
聞こえる声は誰かの悲鳴
振り返るたびに
嫌な過去が脳内を支配する
薄い霧が立ち込める
僕の足跡を静かに覆い隠していた
今までのすべての歩みを
忘れさせようとするかのように
おそる、おそる
深い暗闇に手を伸ばす
不思議と冷たくはない
むしろ────あたたかい?
長い夜を越えられるようにと
あたたかい布団が
僕を包んでくれている
抱きしめて離さない
懐かしい影がひとつ
僕の胸の奥に手を伸ばしてくる
指先は静寂に溶けて
まるで線香花火の煙のように
僕の胸の中に仕舞われた
きっと悪い夢を見ていたんだ。
世界が少しずつ崩壊し始め
言葉さえ枯れた花びらとなってゆく
触れれば土に沈んで
空へと還ってゆく
咲っていた顔も
枯いていた声も
波紋のように広がっては
少しずつ溶けてゆく
ふいに
瞼の裏が明るくなる
朝の香りが鼻の奥を掠めた
胸の鼓動は乱れたまま
真っ白い天井が目を支配する
きっと悪い夢だったんだ。
身体中に絡みついた夢の名残が少しずつ
澄んだ世界に浄化されてゆく
ああ、戻ってこれた。
あれは、きっと
いや────
やっぱり悪い夢だったんだ。
ようやく杯の中に
綺麗な酸素が取り込まれた
ご覧いただき、ありがとうございました。
きっと悪い夢を見ていたんだ。
誰かに届きますように。




