菜の花と残された封筒
2人が最後に送った青い封筒は、行方がわからなくなった。
戻ってもこない。――はたして、相手に届いたのかどうかも分からないままだった。
あれから1年が経った。
春子はリュカへの想いを胸にしまい込み、前に進む決心をしたのだった。
春子は、見合いで出会った男性と結婚した。
やがて、娘の菜々子を授かる。
春が訪れるたび、小湊鉄道の線路沿いに咲く黄色い菜の花を見ると、
胸の奥で、ふとリュカとの文通を思い出してしまう。
でもそれは懐かしい思い出…
そして月日は流れ、孫の菜央が生まれた。
夫は菜央が生まれた後に亡くなり、春子は一人暮らしを始める。
「人生、いろいろあったけれど、私は幸せ者ね。」
家の外の木々を眺めながら、そうつぶやく。
押入れの整理をしていると、懐かしいものを見つけた。
遠い昔、遠い国とやり取りをしていた青い封筒。
缶に入った古びた手紙を手に取り、当時リュカへ恋していた日々を思い出す。
「懐かしいわ…彼は元気かしら?」
それでも、春子は夫との結婚を後悔してはいなかった。
娘の菜々子と孫の菜央がいることが、何よりの宝ものだ。
青春の日々をそっと押入れの奥にしまい込みながら、静かに微笑むのだった。
それから春子は年を重ねるごとに、日々の小さな幸せをかみしめながら暮らした。
春の菜の花を眺め、菜々子や菜央の笑顔に囲まれ、静かに穏やかな時間を過ごした。
時折、遠い日の青い封筒やリュカの面影を思い出すこともあった。
けれど、それは優しい追憶となり、胸の奥で静かに温もりを残すだけだった。
そして春子は、90歳で静かにその生涯を閉じた。
春子の大好きな黄色い花とともに、穏やかに旅立った。
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時は進み現在…
菜央は最後の青い封筒を手に、ポツリとつぶやいた。
「おばあちゃんの最後の手紙は、リュカさんに届いたのかな…?」
胸の奥に小さなもやもやが残ったまま、菜央は決意した。
「自分の目で確かめるしかない。」
そう思うと、自然とフランス行きの計画が心に浮かんだ。
手紙に書かれていたブルターニュの町――リュカが暮らしていた場所を、この目で見届けよう。
なぜ、途中で文通が止まってしまったのか。
その理由を知りたい。
長い飛行の末、菜央はついにその町に降り立った。
手紙に記されていた住所に向かうと、牧場はもうなく、かつての景色は変わっていた。
だが、そこには一軒家があった。
ドキドキしながら、家の前で立ち止まる。
そのとき、庭先に立つ青年の姿が目に入った。
菜央の胸は、期待と緊張で高鳴る。
もしかすると、これが祖母とリュカをつなぐ、最後の物語のはじまりかもしれない――




