第85話 黒光の侵食
王都上空を覆う“黒光”は、まるで夜そのものが形を持ったようだった。
人々は恐怖に凍りつき、空を見上げて祈るしかできない。
「アレン様! このままでは王都全体が呑まれます!」
シオンの叫びが響く。
アレンは城壁の上で剣を握りしめた。
「わかってる……だけど、これはただの魔法じゃない」
刻の核が胸の奥で激しく鼓動を打つ。
黒光が近づくたびに、体の奥から何かが呼応している。
“これは……記録の反転だ”
ルクレアの声が頭の中に響く。
「反転……?」
“あなたの世界が“何度も繰り返された”結果生まれた、拒絶の記録。過去の継承者たちの“絶望”そのものよ”
空から降る黒い粒子が地に触れるたび、建物が音もなく崩れた。
記録そのものが削り取られていくように――。
「……もう、許さない」
アレンの瞳が光る。
「みんな、避難を! これは俺が止める!」
「でもアレン!」
リリィが叫ぶ。
「ダメだよ、あんなの人の手に負えるものじゃない!」
「負えなくても……止めなきゃ、誰も残らない!」
アレンは右手を胸に当てた。
刻の核が砕けるように輝き、無数の記録が空へと放たれる。
過去の戦い、仲間たちの笑顔、失われた命。
全てを記録してきた彼の力が、今、形を成す。
「来い……俺の“記録”たち!」
光が爆ぜ、無数の幻影が現れる。
過去のアレン、倒れた仲間、そして記録された戦いの軌跡――。
それらが一斉に黒光へと突撃した。
衝撃波が王都を揺らし、夜空が白く染まる。
「すごい……アレンが“記録”を実体化させてる!」
リリィが息を呑む。
だがルクレアの声が再び響いた。
“その力を使えば、あなたの命も削られる。それでも抗うの?”
「当たり前だろ。俺の記録は、仲間たちと生きた証だ!」
アレンの叫びに呼応して、光が黒を切り裂く。
夜空が裂け、黒光の中心に巨大な“目”が現れた。
“――観測、続行”
その瞬間、アレンの記録たちは弾かれ、吹き飛ばされる。
黒光が逆流し、王都全体を呑み込もうとした。
「アレン!!!」
リリィが駆け寄る。
アレンは膝をつきながらも剣を支えに立ち上がる。
「……まだ、終わってない」
瞳には、確かな“意志”の光が宿っていた。




