第78話 刻の核
王都の上空に朝日が昇る。
だが、街はまだ眠ったままだった。
あの「時間停止」の余波は消えず、空気の中に“歪み”が残っている。
アレンは崩れた中央広場に立ち、手のひらの上の小さな光を見つめた。
それはレオンが託した――“刻の核”。
無数の魔法陣がその内部で静かに脈打ち、淡い鼓動を刻んでいる。
「……お前の想い、無駄にはしない」
その呟きを背に、リリィ、シオン、そしてエイナが駆け寄ってくる。
「アレン! 街の封印装置が勝手に起動してる!」
「地下の魔導炉が反応しているの。王都全体の記録が――書き換えられてるわ!」
アレンは目を細めた。
(……やはり、“刻の核”を中心に動いているのか)
彼は膝をつき、地面に刻印を描く。
記録のスキルが淡く光り、周囲の情報を再構築していく。
「これは……“古代記録装置”。王国建国より前に造られたものだ。
世界の“履歴”を保存し、必要に応じて再生させるための……いわば、神の記録庫」
シオンが息を呑む。
「まさか、そんなものが王都の地下に……」
「そして今、それが暴走してる。おそらくレオンが核を通じて目覚めさせた」
アレンはゆっくりと立ち上がり、仲間を見渡した。
「止めなければ、王都そのものが“記録の再生”に巻き込まれる。
つまり――この世界が上書きされる」
重い沈黙が落ちた。
だが誰も、逃げるとは言わなかった。
リリィが一歩前に出る。
「行こう、アレン。今度こそ、終わらせよう」
シオンは杖を構え、エイナは静かに頷く。
「……ああ。灰鷹団、出撃だ」
アレンが“刻の核”を掲げると、光が弾け、王都の地面が震えた。
中心から広がる魔法陣が街全体を包み、空に巨大な時計の幻影が浮かび上がる。
――カチリ。
時間が、再び動き出した。
止まっていた人々の息が戻り、街の音が蘇る。
だが同時に、地下深くから不気味な振動音が響く。
「……下だ。王都の地下に、“記録装置”の中枢がある」
アレンたちは崩れた大聖堂の奥、隠された階段を下りていく。
そこには、黄金の光を放つ巨大な水晶構造――“記録装置・アーカイブ・ゼロ”があった。
だが、その前に立ちはだかる影が一つ。
「よくここまで辿り着いたな、アレン・クロウフィールド」
その声には、聞き覚えがあった。
男の肩には、王家の紋章――そして背中には、封印の呪符。
「……まさか、“王国宰相”ベルゼン」
「そうだ。私は、王の命で世界を“最初の形”に戻す。
レオンも、そして貴様も、そのための駒にすぎなかったのだよ」
アレンの目が冷たく光る。
「……レオンを利用したのか」
「利用? 違う。彼も理解していた。
この世界は壊れている。だから――再記録が必要なのだ」
ベルゼンが手をかざすと、アーカイブ・ゼロが唸り声を上げる。
王都全体に響く、機械と魔力の共鳴音。
アレンは剣を構えた。
「俺は止める。お前のやり方では、誰も救われない!」
「ならば――証明してみせろ。記録の勇者よ」
光と闇がぶつかり合う。
地面が砕け、天井が崩れ、アレンの剣が“刻の核”の光をまとった。
「これが……お前の止めたかった時間の“続き”だ、レオン!」
刃が交錯する瞬間、記録装置の奥から、巨大な光の柱が空へと突き抜けた。




