第77話 時の狭間で
光のない空間。
上下も時間の流れもない“虚無”に、アレンとレオンは対峙していた。
「ここが……お前の“保存世界”か」
「ああ。ここなら誰も傷つかない。
俺が全ての時間を止め、世界を守る」
「それは救いじゃない。逃避だ」
アレンの刻印が光を放つ。
無数の記録文字が宙を舞い、剣の形を作る。
「世界を守りたい気持ちは、俺も同じだ。
でも、止めることじゃ救えない。進ませることでしか――未来は生まれない」
「未来なんて、もう存在しない!!」
レオンが叫ぶ。
時間が波打ち、空間が裂ける。
アレンは間一髪で身をかわす。
「……やはり、お前も“観測の欠片”に侵食されているな」
「観測の欠片?」
「世界を見続けた代償だよ。お前は“記録”と同化しすぎた」
レオンの目が狂気に染まる。
時間を止め、進め、戻す――全てを操る。
だがその力は、世界を軋ませていた。
「レオン、戻れ。お前は――!」
「黙れ!!」
レオンが放った時間の刃が、アレンの頬をかすめた。
だが次の瞬間、アレンの剣がそれを“記録”として上書きする。
――カチリ。
止まった時間が、一瞬だけ動いた。
そのわずかな隙に、アレンはレオンの胸に手を当てた。
「《記録解放》!」
眩い光が爆ぜる。
レオンの体を包む時間の鎖が、一気にほどけていく。
「ぐっ……あああっ……!!」
光が消えた時、レオンは倒れ込んだ。
その表情には、穏やかな微笑みが戻っていた。
「……お前は、やっぱり……強いな、アレン」
「バカ野郎……生きろ。今度は一緒に再建しよう」
レオンは微かに頷いた。
そして、アレンの手に小さな光の結晶を託す。
「……“刻の核”だ。これを……王都に……」
「レオン! おい!」
だが彼の姿は光の粒となって消えていった。
時間の狭間が崩壊を始める。
アレンはその結晶を胸に抱き、呟いた。
「必ず、お前の想いは継ぐ。
そして――止まった世界を、もう一度動かす」




