第71話 瓦礫の上の誓い
戦が終わった。
しかし、世界は救われていなかった。
焦げついた大地に、冷たい風が吹く。
黒煙の向こうに見えるのは――かつて繁栄を誇った王都。
瓦礫と灰だけが、栄光の名残を語っていた。
アレンはその中心に立ち尽くしていた。
片手には折れた剣、もう片手には、焦げた王国の旗。
かつての仲間たちは散り散りになり、もう誰も彼の隣にはいない。
「……これが、俺たちが守ろうとした国の姿か」
呟く声が、風にかき消された。
【記録】スキルを起動する。
目の前の光景――崩れた塔、泣き崩れる民、瓦礫の下の亡骸――すべてが、アレンの記録に刻まれていく。
だが、それは痛みを増すだけだった。
背後で、足音がした。
「……まだ、生きてたんだな」
振り返ると、ボロボロのローブをまとった男――リクトが立っていた。
かつてアレンの副官であり、裏切りの嵐の中で唯一生き残った男。
「レイナは……どうなった?」
「……もう、いない。」
「そうか……」
二人の間に、重い沈黙が落ちた。
「アレン、これからどうする?」
問いかけに、アレンは空を見上げた。
黒い雲の切れ間から、わずかに朝日が覗いている。
「――もう一度、立て直す。
この国を、最初から。」
リクトは驚き、そして笑った。
「お前、本気か? 国を再建するなんて、王族でも無理だぞ」
「俺には【記録】がある。
過去を記録し、同じ過ちを繰り返さない。
それが、今の俺にできる唯一の戦いだ」
アレンの瞳は、炎ではなく、静かな光を宿していた。
「人がいないなら集める。
資源がないなら作る。
信頼がないなら、もう一度築く。
この記録を、再生の礎にする」
その言葉に、リクトはしばらく沈黙し――やがてうなずいた。
「……なら、俺も付き合うさ。
王国再建、面白そうじゃねぇか」
二人は廃墟の中を歩き出す。
焼け焦げた街の片隅に、まだ息をしている人々がいた。
子どもを抱く母、倒れた兵士を介抱する老人。
アレンはゆっくりと彼らの前に立ち、声を張り上げた。
「――俺はアレン。かつてこの国の記録者だった者だ!
国を取り戻すため、力を貸してほしい!」
沈黙のあと、小さな拍手が起きる。
やがてそれは波のように広がり、誰かが泣きながら叫んだ。
「……俺たちも、立ち上がる!」
その瞬間、アレンの胸に灯がともった。
希望という名の、小さな光が。
「記録は……終わりじゃない。
ここからが、始まりだ――」
瓦礫の上で誓ったその言葉が、
再生の鐘の音のように、王都全体に響き渡った。




