第7話 囁かれる噂
模擬戦から三日が経った。
俺はまだ、体の奥に残る重さを引きずっていた。
戦いの最中に【記録】を多用したせいだろう。
スキルが強力であるほど、反動も強烈になる――それを嫌というほど思い知らされた。
「アレン、顔色悪いよ?」
心配そうに覗き込むリリア。
彼女は最近、やたらと俺のそばにいる。
学園の噂好きたちが二人を冷やかすほどに。
「大丈夫だ。少し疲れてるだけだ」
「……本当?」
疑わしげな瞳に、俺は曖昧な笑みを返す。
本当のことを話すわけにはいかない。
スキルの正体、そして負担のこと。知られれば、リリアさえ俺を恐れるかもしれない。
その日の放課後。
図書塔で資料を探していた俺の耳に、妙な会話が入った。
「聞いたか? クロードってやつのスキル」
「記録とかいう……なんでも真似できるって話だ」
「馬鹿げてる。もし本当なら――」
「王国にとって、危険すぎる」
陰に潜む生徒たちがひそひそと話す声。
背筋に冷たい汗が流れた。
噂は、もう広まっている。
その夜。
寮の自室で寝ようとした瞬間、窓から気配を感じた。
「――っ!」
反射的に剣を抜く。
月明かりに浮かんだ影が、一瞬こちらを覗いて消えた。
気のせいではない。
誰かが俺を監視している。
「……ライオットの言葉は、やはり本当だったか」
ただの模擬戦で終わらせるつもりなど、誰もなかった。
この力は、すでに“誰か”の目に留まっている。
翌日。
授業を終えた俺に、ひとりの少女が声をかけてきた。
「あなたが……アレン・クロード?」
漆黒の髪を長く垂らし、冷ややかな雰囲気をまとった少女。
どこか高貴な気配を放つその瞳が、まっすぐ俺を射抜いた。
「名乗り遅れました。わたしはセシリア・エヴァンス。――王国宰相の娘です」
周囲の生徒たちがざわめく。
宰相の娘。国の中枢に関わる人物が、なぜ俺に?
彼女はわずかに微笑む。
「“あなたの力”について、詳しく話を伺いたいのです」




