灰色の森・深部
夜明け前の冷えた空気が、焚き火の温もりをかすかにかき消していた。遠征の野営地は静まり返っている。だが、アレンの心は静かではなかった。
「……動き出すのは、今夜だ。」
その言葉に、仲間たちが顔を上げる。
ナリアは険しい表情を浮かべ、ミカは小さく拳を握り、ライエルはただ静かに頷いた。裏切りの刃編で突きつけられた現実——王国軍の一部が裏で敵と手を組んでいるという衝撃的な真実。それを暴くには、決定的な証拠を掴むしかない。
「けど、アレン……もし捕まったら、ただじゃ済まないよ」
ミカの声は震えていた。彼女は誰よりも心配性で、誰よりもアレンを信じている。
アレンはゆっくりと彼女を見つめた。
「分かってる。それでも行くしかない。俺の“記録”で、この裏切りを刻みつけるんだ。二度と隠せない形でな。」
ナリアは腕を組み、ため息をついた。
「覚悟は決まってるみたいね。……だったら、私たちも行くわよ。危険は承知の上でしょ?」
「もちろんだ」
ライエルの低い声が響いた。彼の瞳には、戦士としての静かな闘志が燃えていた。
仲間たちはそれぞれに不安を抱きながらも、互いの存在が支えになっていた。
焚き火の炎に照らされたアレンの横顔は、かつての「落ちこぼれ」の影を微塵も感じさせなかった。
最弱と蔑まれたスキル《記録》が、今や国の未来を左右する唯一の武器になろうとしている。
「よし、決まりだ。今夜、裏切り者たちの拠点に潜入する。」
その瞬間、冷たい風が吹き抜け、炎が大きく揺れた。まるで彼らの覚悟を試すかのように。
仲間たちの心はひとつになった。もう後戻りはできない。
アレンは拳を握りしめ、胸の奥で呟いた。
——この記録は、未来を変える。必ず。
そして夜の帳が下りる頃、彼らは決戦へと歩み出すのだった。




