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最弱スキル《記録》しか持たない俺、気づけば世界最強の英雄になっていた  作者:
裏切りの刃編

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第62話 灰色の森の入口

王都へ向かう街道を北東に進み続け、数日が過ぎた。

 道の両脇には広大な平原が広がり、時折すれ違う商人や旅人から情報を集めながら歩を進める。

 やがて、地平線の先に黒々とした森の影が見えてきた。

 「……あれが“灰色の森”か」

 遠くからでも分かる異様さがあった。木々はまるで煤を浴びたように灰色がかり、風が吹いても葉が揺れない。不自然な静けさが、こちらを拒むかのように漂っていた。

 「やっぱり、噂通り不気味だな」フィンが弓に手をかける。

 「森を抜けるには五日はかかる。その間、魔物の襲撃は避けられない」ガイルの声も硬い。

 リゼルは無言で妹の頭を撫でながら、森を睨んでいた。

 俺は【記録】を起動し、これまで集めた情報を呼び出した。

 ――灰色の森は“魔瘴気”が漂い、普通の獣さえ魔物化してしまう。

 ――夜になると視界が奪われ、音だけを頼りに動く影が現れる。

 ――生きて戻った者は、皆「森そのものが生きている」と語った。

 情報を整理し、俺は仲間に告げた。

 「道なりに進めば最短で五日。ただし危険が多すぎる。だから獣道を選ぶ。過去の商人の記録によれば、南東の小道を通れば二日は短縮できる」

 「獣道……か。魔物との遭遇率は高そうだな」ガイルが腕を組む。

 「だからこそ俺の【記録】が必要になる。敵の習性を読んで、無駄な戦いを避ける」

 覚悟を決め、俺たちは森の入口へと足を踏み入れた。

 ――しん、と音が消えた。

 一歩進んだ瞬間、周囲の空気が重く沈む。鳥の鳴き声も風のざわめきもない。ただ灰色の木々が、じっと俺たちを見下ろしているようだった。

 「……息が苦しい」リゼルが顔をしかめる。

 「魔瘴気だな。長時間吸い込むと幻覚を見るって話だ」フィンが布を口に当てた。

 俺も布で口を覆い、仲間に合図を送る。「油断するな。何か来る」

 足音が響いた。

 乾いた枝を踏み砕くような音。右から、左から、前から。複数だ。

 次の瞬間、灰色に染まった狼たちが木陰から飛び出した。目は赤く光り、口からは粘つく黒い涎が滴る。

 「来やがったな!」ガイルが盾を構える。

 「三体……いや四体か!」フィンが矢をつがえる。

 俺は【記録】を呼び出し、過去にこの森を通った旅人の言葉を再生した。

 ――“灰狼”は群れで動き、先頭が囮となる。背後からの奇襲に注意しろ。

 「背後だ! 二体隠れてる!」

 俺の声に合わせ、フィンが後ろへ矢を放つ。悲鳴を上げた灰狼が影から飛び出した。

 「さすがだな」フィンが笑う。

 「記録があるからこそだ。油断するな、まだ来る!」

 灰色の森の入口は、すでに戦場と化していた。

 息を呑むほどの静けさの中、仲間たちの武器が光を放つ。

 俺は心臓の鼓動を聞きながら、次の一手を記録に刻んだ。

 ――戦いは、まだ始まったばかりだ。

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