第61話 王都への旅立ち
夜明けの光が差し込むと同時に、俺たちは洞窟を後にした。
捕らえた幹部は呪印によって命を絶たれ、村を襲った盗賊団は壊滅。人質も無事救出できた。だが、残されたのは安堵よりも不穏な影だった。
――《黒蛇》という名の組織。幹部が恐怖を滲ませながら吐き出したその言葉が、俺の胸に重く沈んでいる。
「アレン、本当に行くんだな……王都まで」
ガイルが大きな背を揺らしながら、俺を見下ろす。
「当然だ。あの幹部が残した言葉を無視するわけにはいかない。黒蛇……奴らが何を企んでいるのか、確かめる必要がある」
そう答えると、フィンが弓を背負い直しながら口を挟む。
「王都ってのはそう簡単に歩いて行ける距離じゃない。途中には盗賊だけじゃなく、魔物の巣もある。準備を怠ったら、途中で全滅だぞ」
「分かってる。だからこそ、今のうちに必要な物を整えておきたい」
俺たちは村に戻り、救出した人々から感謝を受けた。村人たちは涙を流し、何度も頭を下げる。その姿を見るたびに、戦いの意味を実感する。
リゼルも妹を抱きしめたまま、俺の隣に立っていた。
「アレン……本当に、ありがとう」
「礼はいいさ。俺がやりたいからやっただけだ」
素っ気なく答えると、リゼルは小さく笑った。
「そういうところ、ずるいわね」
村人たちは旅の支度に必要な食料や衣服を分けてくれた。中には古びた地図もあり、王都へと続く道の情報が記されていた。
「北東の街道を抜ければ二週間ほどで王都に着く。ただし……途中には“灰色の森”を越えねばならない」
村の長老がそう言った。
灰色の森――聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走った。そこは魔物の密集地帯として知られ、旅人が行方不明になることも多い危険地帯だ。
「二週間か……」
俺は【記録】を開き、過去に出会った旅人や商人の言葉を再生する。灰色の森で遭遇した魔物の習性、通過のコツ、使える獣道……小さな情報を一つひとつ積み重ねていく。
「……行ける。俺たちなら乗り越えられる」
その夜、村を出る前に仲間たちと火を囲んだ。焚き火の赤い光が、それぞれの顔を浮かび上がらせる。
「なぁ、アレン」ガイルが口を開く。
「お前の【記録】、本当に最弱なのか? 今日の戦いを見て、俺はそうは思えねぇ」
「俺自身も、もうそうは思ってない」俺は炎を見つめながら答える。
「だけど……危険でもある。黒蛇が俺を狙っているのは、この力が“記録”以上のものになると知っているからだ」
沈黙が落ちた。その沈黙を破ったのは、リゼルの声だった。
「なら、私も力になる。アレン、あなた一人で戦う必要はない」
彼女の瞳には迷いがなかった。隣で妹を抱く手にはまだ震えが残っているはずなのに、その声は強かった。
「リゼル……」
「私、弱いかもしれない。でも、私の魔法が誰かを守れるなら、必ず戦う」
その決意に、俺は言葉を失った。
フィンが肩をすくめ、苦笑した。
「はぁ……仕方ねぇな。お前ら二人とも、どこまでも真っ直ぐだ。だったら俺も付き合うさ。矢の届く限り、敵を撃ち抜いてやる」
「俺もだ」ガイルが拳を握る。
「この拳で黒蛇をぶっ飛ばす。それが俺の役目だ」
焚き火の炎が揺れ、仲間たちの顔を赤く照らす。
――ああ、俺は一人じゃない。
最弱と呼ばれたスキルしか持たなかった俺が、こうして仲間と肩を並べて未来を選ぼうとしている。胸の奥が熱くなった。
夜が明け、俺たちは村人たちに見送られながら歩き出す。
灰色の森を越え、王都へ――そして黒蛇との戦いへ。
「行こう、みんな。記録の導く未来を、この手で掴むために」
俺の言葉に、仲間たちは頷いた。
新たな旅が始まった。
その道が血と涙に染まろうとも、もう後戻りはできない。




