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最弱スキル《記録》しか持たない俺、気づけば世界最強の英雄になっていた  作者:
裏切りの刃編

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第60話 記録と真実の狭間で

洞窟の奥に、緊張が残っていた。

 人質は救出され、リゼルは妹を抱きしめている。ガイルとフィンは疲労を滲ませながらも周囲を警戒していた。

 そして、俺たちの前には――捕らえられた蛇の牙の幹部がいた。

 黒装束の仮面は剥ぎ取られ、鋭い目がこちらを射抜く。まだ反抗の炎は消えていない。

 「殺すなら早く殺せ。拷問しても無駄だ」

 幹部の声は低く、挑発的だった。

 だが俺は首を振る。

 「いや、殺す気はない。俺はただ――お前の『記録』を読みたいだけだ」

 その言葉に、幹部は初めてわずかに眉を動かした。

 俺は【記録】を起動し、戦闘中に見た彼の動き、仕草、呼吸の乱れを再生する。過去の些細な癖を拾い上げ、頭の中で繋ぎ合わせる。

 「お前は左肩をかばっていたな。古傷か? いや、それだけじゃない。戦闘の合図を送るとき、必ず視線を右に流していた。つまり、お前の背後にはまだ“仲間”が潜んでいる可能性がある」

 幹部の目が鋭くなった。

 「……戯言だ」

 「戯言かどうかは、お前の心が証明してる」

 俺はさらに畳みかける。

 「蛇の牙はただの盗賊団じゃない。もっと大きな組織の“尖兵”だろう。今回の村襲撃も、人質を取ることが目的じゃない。真の狙いは――“記録持ち”をおびき寄せること、そうだな?」

 沈黙。

 幹部の拳が震え、岩を打った。だが、否定はしない。

 リゼルが妹を背に庇いながら、不安げに問う。

 「記録持ちって……アレン、あなたのこと……?」

 「そうらしいな」俺は苦く笑う。

 「奴らは俺を知っている。いや、俺のスキルの危険性を理解しているんだ」

 幹部が吐き捨てる。

 「最弱のはずの【記録】が、なぜここまで厄介になる……。我らが主は正しかった。放置すれば、必ず災厄を招くと」

 “主”――その言葉に俺たちは反応する。

 ガイルが剣の柄を握り直し、声を荒げた。

 「主だと? 蛇の牙を操ってる黒幕がいるってのか!」

 俺は【記録】で幹部の表情を追い、わずかな動揺を読み取った。

 「お前が恐れているのは失敗じゃない。主の逆鱗に触れることだ。だから口を閉ざす。だが、その怯えが答えになってる」

 幹部は歯ぎしりをし、ついに膝をついた。

 「……東方の王都に“集会”がある。蛇の牙はただの駒。真の組織《黒蛇》が動き出す。お前の存在は、すでにそこに記録されている……」

 声を絞り出した瞬間、幹部の胸元で何かが光った。

 「アレン、危ない!」リゼルの叫び。

 次の瞬間、幹部の体が激しく痙攣し、黒い煙を上げて崩れ落ちた。

 ――自動で発動する“沈黙の呪印”。仲間に捕らえられた場合、強制的に命を絶つ仕組みだったのだ。

 「クソッ……!」フィンが弓を握りしめる。

 ガイルは拳を壁に叩きつけた。

 俺は深く息を吐き、幹部の残骸を見つめる。

 「黒蛇……やはり俺たちの敵は、もっと深い闇に潜んでいる」

 リゼルが震える声で尋ねる。

 「アレン……これから、どうするの?」

 俺は仲間たちを見渡し、決意を込めて言った。

 「記録に導かれた道を進む。次は――王都だ」

 冷たい夜風が洞窟を吹き抜け、戦いの幕間に新たな戦いの予感を告げていた。

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