第6話 試される刃
演習場に生徒たちが集まっていた。
今日は本来、一年生の実技訓練の日。だが特別に“上級生との模擬戦”が組まれたと聞き、野次馬も押し寄せている。
「やっぱり相手はライオット先輩か……」
「一年のクロードが、二年の首席と? 無茶だろ」
ざわめきが広がる中、俺は木剣を握り締めた。
隣ではリリアが心配そうにこちらを見ている。
「アレン……本当に大丈夫?」
「……分からない。でも、やる」
ここで逃げれば、昨日の俺の証明はすべて幻になる。
それだけは、嫌だった。
演習場の中央に立つライオットは、冷ややかに俺を見据えていた。
銀髪が風に揺れ、その姿は絵のように整っている。
だが、その眼差しには一切の感情がなかった。
「準備はできたか、クロード」
「……ああ」
審判役の教師が声を上げる。
「これより模擬戦を開始する! 双方、全力で臨め!」
開始の合図と同時に、ライオットが動いた。
踏み込み――速い。
昨日戦ったカイルの比ではない。
俺は咄嗟に【記録】した「剣技」を引き出す。
木剣と木剣がぶつかり、火花が散った。
「ほう……真似るだけでなく、動きが洗練されているな」
余裕すら感じさせる声。
次の瞬間、斬撃が雨のように降り注ぐ。
必死に受け流し、模倣し、返す。
だが、追いつけない。速すぎる。
頭の中に浮かぶ文字が次々と光る。
【剣技を記録しました:ヴェルナー流・三連撃】
【剣技を記録しました:ヴェルナー流・霞突き】
体は覚えていく。だが、処理しきれない。
胸の奥に鈍い痛みが走り、息が荒くなる。
(……やばい。これ以上は、持たない……!)
そのとき――。
ライオットの剣が止まった。
木剣の切っ先を俺の喉元に突きつけたまま、彼は淡々と告げる。
「……十分だ。これ以上は、命を落とす」
ざわめきが走る。
審判が慌てて試合終了を告げた。
「勝者、ライオット・ヴェルナー!」
土の上に崩れ落ち、肩で息をする俺。
全身が鉛のように重かった。
だが、ライオットの目だけは、しっかりと見返した。
「……どうして、やめた」
「お前はまだ、使い方を知らぬ。……だが、伸びる」
彼は俺の耳元に低く囁いた。
「――力は隠せ。でなければ、必ず“上”に利用される」
その言葉を残し、ライオットは踵を返して去っていった。
観客が去った後、リリアが駆け寄ってきた。
「アレン! ねえ、大丈夫!? 本当に死ぬかと思ったわよ!」
俺はかすかに笑い、空を仰いだ。
悔しさと同時に、心の奥に冷たいものが残っていた。
――ライオットは強い。それ以上に、“何かを知っている”。
この学園、この国に、俺のスキルに目をつけている“上”がいるということを。
「……逃げられないな。どこまでも」
夕暮れの空が赤く燃えていた。