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最弱スキル《記録》しか持たない俺、気づけば世界最強の英雄になっていた  作者:
裏切りの刃編

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第58話 揺らぐ刃、試される心

岩が落ちる轟音が洞窟を震わせ、土煙が立ちこめた。

 人質たちは別の檻へと引きずられ、仲間の叫びがこだまする。

 「やめろっ!」

 リゼルが駆け出そうとするのを、俺は腕を掴んで止めた。

 「落ち着け! 罠だ、感情に任せるな!」

 闇の奥からゆっくりと歩み出る男。黒装束に蛇の牙の紋章。背丈は高く、冷たい笑みを浮かべていた。

 「お前がアレンか……最弱のはずが、今や最も厄介な存在と聞いている」

 その声は洞窟に響き、冷気のように仲間の心を削った。

 「人質を解放しろ」

 俺が低く告げると、男は愉快そうに口角を上げた。

 「もちろん、解放してやってもいい。ただし――彼女次第だ」

 視線がリゼルに突き刺さる。

 「妹を救いたければ、再びこちらに戻れ。裏切り者としてではなく、忠実な駒として」

 リゼルの顔が蒼白になった。

 ガイルが怒りに震え、剣を抜こうとしたが、俺は手で制した。

 「……リゼル。答えるな」

 「で、でも……!」

 俺は【記録】を起動し、男の動作を観察した。わずかな視線の動き、指先の合図。――人質の鎖を操る仕掛けは奴が握っている。もし不用意に飛び込めば、村人たちの命が奪われる。

 「選べ、リゼル」男が迫る。「仲間か、妹か。どちらを切り捨てる?」

 空気が凍りつく。リゼルの瞳は揺れ、涙がこぼれた。

 「……そんなの……選べるわけ……!」

 俺は一歩前に出た。

 「選ばなくていい」

 「……え?」リゼルが顔を上げる。

 「お前は俺を信じろ。俺が“両方”救ってみせる」

 胸の奥から熱が込み上げ、言葉が自然と零れた。

 敵の男は鼻で笑った。

 「大言壮語だな。ならば見せてみろ。最弱の力で、どこまで抗えるか!」

 次の瞬間、洞窟の奥から無数の兵士が現れ、鉄格子の中の人質の首元に刃を突きつけた。

 戦いは避けられない――だが選択を迫られるのは、俺ではなくリゼル自身。

 彼女の震える手を、俺は強く握った。

 「信じろ、リゼル。ここからが本当の戦いだ」

 仲間たちが武器を構え、洞窟に緊張が走る。

 闇の中、俺の【記録】が再び光を放った。

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