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最弱スキル《記録》しか持たない俺、気づけば世界最強の英雄になっていた  作者:
裏切りの刃編

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第57話 人質奪還の夜

夜明け前の冷気が、肌を刺す。

 俺たちは焚き火の残り火を消し、最低限の荷を背負って荒野を進み始めた。目指すは、リゼルが告げた谷間――蛇の牙が人質を捕えている可能性の高い場所だ。

 「……ここが本当に奴らの拠点なのか?」

 ガイルが低く唸る。額には汗が浮かんでいる。

 リゼルは顔を伏せ、しかし真っ直ぐに答えた。

 「間違いありません。あの谷の洞窟……そこに妹と、他の捕らわれた村人たちがいるはずです」

 疑念の視線が彼女に集まる。まだ完全に信じきれてはいない。

 だが俺は【記録】を再生しながら一歩進んだ。戦闘の断片、残された布片、足跡の軌跡。それらすべてが、この方向を指し示していた。

 「信じるかどうかは後だ。今は人質を救う。それだけだ」

 短く告げると、仲間たちの視線も徐々に前へ向いた。

 谷へと近づくにつれ、空気が変わった。草の匂いに混じって、鉄錆のような血の臭いが漂う。

 岩場の陰で身を伏せ、俺は耳を澄ませた。

 ――風に混じる足音。規則的ではない。見張りが複数。

 「フィン、上から数を確認してくれ」

 俺の指示に、弓を携えたフィンが木陰に駆け、すぐに戻ってきた。

 「……三人。洞窟の入り口に立ってる。中にも気配がある」

 「三人だけ? 罠にしては薄いな」ガイルが眉をひそめる。

 「いや、奴らは見せ駒を置いて、本命を隠すのが常套手段だ」俺は囁いた。「全員で突っ込むのは危険だ」

 作戦を練る時間は少ない。人質が無事とは限らない。

 俺は【記録】を起動し、過去の戦いで見せた敵の行動パターンを呼び起こした。交代の間隔、合図の音――蛇の牙の兵士たちには必ず癖がある。

 脳裏に浮かんだのは、数日前の襲撃で吹かれた短い笛の音だった。敵は合図で動く。ならば逆に利用できる。

 「偽の合図を送る。フィン、合図が響いた瞬間に弓で入口の三人を仕留めろ。ガイルは俺と突入だ。リゼルは――」

 言いかけた瞬間、リゼルが前に出た。

 「私に行かせてください。妹を救うのは、私の役目です。……もう二度と裏切らない」

 彼女の瞳は、昨日までの揺らぎを完全に捨て去っていた。

 俺は短く息を吐き、頷いた。

 「いいだろう。ただし俺から離れるな。命令には必ず従え。それが条件だ」

 「……はい!」

 計画通り、俺は笛の音を【記録】から再現した。

 洞窟の奥に響く合図に、敵の見張りが一瞬だけ動揺する。その隙を逃さず、フィンの矢が正確に二人を貫き、残る一人をガイルが拳で沈めた。

 入り口は制圧。しかし洞窟の奥からはすぐに叫び声と武器の音が響き渡る。

 「気づかれたか……!」

 俺は仲間を率いて突入した。

 洞窟の中は暗く、湿った空気が充満している。火把を掲げると、奥で複数の鉄格子が並び、その中に村人らしき人影がうごめいていた。

 「お姉ちゃんっ!」リゼルの声が弾ける。格子の中で痩せた少女がこちらを見て涙を流していた。

 だが、その瞬間――足元に仕掛けられた罠が閃いた。

 「下がれ!」

 俺が叫ぶと同時に、地面から無数の矢が飛び出す。辛うじて防御したが、奥から武装した兵が一斉に現れる。

 「待ち構えてやがったか……!」

 さらに奥から現れたのは、黒装束の男。蛇の牙の印を肩に掲げた幹部だろう。

 「哀れだな、アレン。仲間を信じ、裏切りを抱えたままここに来るとは。だが好都合だ。我らの本当の計画を、ここで見せてやろう」

 男の指が鳴ると同時に、洞窟全体が低く唸りを上げた。天井から落ちる岩、そして鉄格子の奥で――人質たちが次々と別の檻へ引きずられていく。

 「しまった……!」

 俺の胸に冷たい衝撃が走った。

 救出は、最初から敵の罠の一部だったのだ。

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