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最弱スキル《記録》しか持たない俺、気づけば世界最強の英雄になっていた  作者:
裏切りの刃編

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第53話 疑念の芽吹き

薄暗い宿舎の一室で、アレンは椅子に腰掛けたまま、机に散らした地図や報告書に目を通していた。戦乱が終わり、ようやく訪れたはずの静けさ。そのはずだった。だが、胸の奥に巣食うざらりとした違和感が、眠りを許さない。

「補給物資が……また遅れている」

 指で地図をなぞりながら呟く。敵国の侵攻もひとまず退け、補給路は安全なはずだ。それなのに、糧食や武具の補充が不自然なほどに滞っている。報告を繋ぎ合わせれば、誰かが意図的に流れを断ち切っているとしか思えなかった。

 そこへ、扉がノックされる。

「アレン、起きてる?」

「……リナか。入れ」

 扉を開けたのは仲間の魔導士リナだった。青い外套を肩にかけ、少しだけ不安そうな瞳をしている。

「また資料を見てるの? 寝ないと身体がもたないよ」

「それはわかってる。でも、どうも腑に落ちなくてな」

 アレンは机上の報告書を指差す。リナは彼の隣に立ち、紙を覗き込んだ。

「……物資の遅れ、確かに多いね。でも、ただの事務方の怠慢とかじゃないの?」

「いや。偶然にしては出来すぎている。遅延が起きる地点は必ず俺たちの行軍ルートに沿っている。まるで、俺たちを狙って弱体化させようとしているみたいだ」

 リナは息をのむ。その反応にアレンは口を閉ざした。仲間に不安を広げることは簡単だ。だが、それは同時に内部崩壊を呼ぶ諸刃の刃でもある。

「……誰か、内部に裏切り者がいるかもしれない」

 リナの瞳が大きく揺れた。

「そ、そんな……!」

「言うな。まだ確証はない。だが、何者かが俺たちの動きを外部へ流しているのは間違いない」

 アレンは「記録」のスキルを発動した。過去の行軍、交わした会話、仲間の行動を一つひとつ映像のように脳裏に呼び戻す。数秒、数分単位の違和感を拾い上げる。――だが、現時点では誰が裏切り者かを示す決定的な証拠はなかった。

「俺が見落としているのか……」

 独り言のように呟いたそのときだった。外から小さな怒号が響いてきた。

「何だ……?」

 アレンとリナは同時に立ち上がり、廊下に飛び出す。宿舎の入口で、槍を持った兵士たちが揉めていた。その中心にいたのは、仲間の一人である剣士カイルだ。

「俺を疑ってるのか!? ふざけるな!」

「だが、昨日の夜、お前が倉庫の近くで怪しい動きをしていたと証言が――!」

 兵士たちの視線が一斉にカイルに向けられる。カイルは血走った目で周囲を睨み返していた。

「待て」

 アレンが前に出て声を張る。場の空気が一瞬で静まり返る。

「カイルを疑うのはまだ早い。証拠も不十分だ。騒ぎを広げる前に、俺が直接調べる」

「アレン……!」

 カイルの目に一瞬、救われたような色が宿る。しかし、その奥に何か別の影がよぎった気がして、アレンの胸に再び冷たい疑念が芽生えた。

 その夜、アレンは一人、記録のスキルで再び過去を遡った。倉庫の影で何かを渡していたカイルの姿。いや、はっきりとした映像はない。ただ人影が二つ、重なり合う瞬間。

(もし、あれがカイルだとしたら……)

 心臓が強く打つ。だが確証を掴めない以上、仲間を敵と断じることはできない。

 翌朝、ギルドから新しい任務が下された。国境付近で頻発している襲撃の調査と鎮圧。だが、その依頼書の端に小さな違和感をアレンは見つけた。

(この地名……俺たちの予定ルートを事前に把握していなければ書けないはずだ)

 仲間の誰かが情報を流している。確信は深まった。

 アレンは拳を握り締め、静かに決意する。

「次の任務で――裏切り者を炙り出す」

 その言葉は誰にも聞かれることなく、宿舎の朝の光の中に溶けていった。

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