表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱スキル《記録》しか持たない俺、気づけば世界最強の英雄になっていた  作者:
裏切りの刃編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/87

第50話 疑心の始まり

 臨時評議会から数日後、カルナの街には妙な重苦しさが漂っていた。

 戦の勝利によって歓喜に包まれるはずの街は、人々のささやき声と警戒の視線で満ちている。

 ――裏切り者がいる。

 その噂は、兵士から市民にまで広がり、やがて仲間同士をも疑わせる空気を作り出していた。

 「おい、あの兵、敵に密告してたらしいぞ」

 「本当か? 俺は別の奴の名前を聞いたぞ」

 「いや、評議会の上層にこそ怪しい連中が……」

 根拠のない噂は雪玉のように膨らみ、やがて誰もが誰をも信じられなくなりつつあった。

 レオンは仲間を集め、城内の一室で密談を開いた。

 集まったのはリィナ、カイル、エリス、ギルの四人。全員が顔を強張らせ、視線を合わせようとしない。

 「……さて。お前たちも知っての通り、裏切り者がいると評議会は言っている」

 レオンの声は冷たく響く。

 「だが、俺は一つだけ確信していることがある」

 「な、なに?」リィナが不安そうに問い返す。

 「この中の誰かが、疑われている」

 その言葉に空気が張り詰めた。

 沈黙。誰もが隣の仲間を盗み見る。

 ギルの指先は机をトントンと叩き、落ち着かない。エリスは視線を逸らし、口を固く結んでいる。カイルは腕を組んだまま動かない。

 「馬鹿馬鹿しい!」

 真っ先に声を上げたのはカイルだった。

 「俺たちは命を懸けて戦ってきたんだぞ! 仲間を裏切るなんてあり得ねぇ!」

 「……だが、可能性は否定できない」

 レオンはあえて冷たく言い放った。

 「だからこそ、俺たち自身で真実を暴くしかないんだ」

 その夜。

 レオンはひとり城下町を歩いていた。勝利の影に潜む不穏を探るため、耳を澄ませる。

 路地裏では兵士たちが酒に酔いながら話していた。

 「聞いたか? 兵糧庫を壊したのは……」

 「しっ、声がでかい!」

 「だが確かに、赤いマントを着た人物が目撃されてるんだ」

 赤いマント――心当たりがあった。

 あの日、戦場で奇妙に遅れて到着した者。ギルだった。彼の肩には、赤茶けた外套がかかっていたはずだ。

 「……ギル、なのか?」

 疑念が胸に芽生えた瞬間、レオンの心臓は重く締めつけられた。

 だが同時に、彼は己に言い聞かせる。

 (証拠もなく決めつけるわけにはいかない。俺は仲間を信じたい……だが、確かめなければならない)

 翌日。

 レオンは仲間たちを再び呼び出し、戦場での行動を順に振り返らせた。

 「俺は西側の砦を押さえていた」カイルが言う。

 「私は魔法障壁を維持していたわ」エリスが冷静に答える。

 「わ、私は……負傷兵の治療をしてた」リィナが小声でつぶやく。

 最後に視線はギルに向いた。

 「俺は……物資の運搬を任されてた」ギルの声はどこか硬い。

 「兵糧庫の近くにも行った。けど、それがどうした?」

 全員の視線が彼に注がれる。

 ギルは苛立ちを隠さず、机を叩いた。

 「おい、まさか俺を疑ってるのか!? 俺は裏切っちゃいねぇ!」

 「落ち着け、ギル」レオンが静かに制した。

 「俺はまだ誰も断罪していない。ただ――真実を知りたいだけだ」

 会議が終わった後、リィナがそっとレオンに近づいた。

 「レオン……本当に、この中に裏切り者がいるの?」

 「分からない」レオンは正直に答える。

 「だが、もしそうなら……俺たちの絆は試されているんだ」

 リィナの瞳が揺れる。

 その不安を見て、レオンは胸が痛んだ。

 仲間を守りたい。だが、真実を突き止めるためには疑わざるを得ない。

 ――その矛盾が、彼の心を苛み続けていた。

 夜。

 レオンは密かに動いた。

 ギルの行動を監視するため、兵舎近くに身を潜める。

 月光に照らされ、ギルの影が現れた。彼は辺りを気にしながら、布袋を抱えてどこかへ向かっている。

 (まさか……)

 レオンは息を潜めて後を追った。

 袋の中身は分からない。だが、その足取りは確かに怪しい。

 やがてギルは人気のない倉庫に入っていった。

 ――扉が閉まる直前、レオンは確かに見た。

 袋の隙間から覗いた、軍の印が押された巻物を。

 「ギル……お前、本当に……?」

 胸の奥で疑念と痛みが渦巻く。

 信じたいのに。信じたくないのに。

 しかし、裏切りの影は確かにそこにあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ