第5話 嫉妬の影
模擬試験が終わった翌日。
教室に入った瞬間、空気が昨日までとまるで違うことに気づいた。
「……あれがアレン・クロードだって?」
「信じられない、だって最弱って……」
「リリアと肩を並べて戦ってたぞ」
ひそひそと交わされる声。
嘲笑はなくなり、代わりに好奇と驚きの視線が俺を刺す。
心臓が妙に早鐘を打っていた。
「……ふふ、人気者になったじゃない」
リリアが隣の席でにやにや笑う。
からかうような口調だったが、どこか誇らしげにも見えた。
「いや……俺は別に……」
本音を言えば、注目なんて望んでいない。
目立てば目立つほど、この力に目をつける者が現れる。
昨日の試験で悟った――【記録】は便利すぎる。あまりに万能だからこそ、狙われる。
休み時間。
教室の扉を押し開けて入ってきたのは、鋭い眼差しを持つ少年だった。
「おい、クロード。話がある」
上級生の制服。
彼は堂々と俺の机の前に立ち、周囲が息を呑む。
「俺の名はライオット・ヴェルナー。二年の首席だ」
「……首席?」
ざわめきが広がる。
彼は貴族の出であり、剣も魔法も群を抜いて優れている――そう噂される人物だ。
「昨日の模擬試験、見ていた。……面白い力だな。
記録、だったか? “最弱”とは思えなかったぞ」
淡々とした声音に、背筋が冷たくなる。
彼の瞳は笑っていない。ただ鋭く、俺を測っているだけだった。
「……もしよければ、次の実技演習で俺と戦え」
「なっ……!」
教室がざわめき、リリアが思わず立ち上がる。
「ちょっと待って! 上級生が下級生に挑むなんて……!」
ライオットは軽く首を振った。
「挑戦ではない。……試すだけだ」
その言葉に、ぞくりとした。
挑発でも嫌味でもない。ただ、俺を“観察対象”として見ている目。
――もし俺の力を知られすぎれば、どうなる?
胸の奥で不安が渦を巻いた。
放課後。
夕暮れの中庭でリリアと並んで歩く。
彼女は険しい顔で腕を組んだ。
「絶対気をつけて。ライオット先輩、ただ者じゃないわ。
実力はもちろんだけど……なにか隠してる。わたし、あの人の目が嫌い」
「……分かってる」
俺は握った拳を見下ろした。
模擬試験で証明した力は、同時に「注目」を呼び寄せた。
これからはもう、隠し通すことはできない。
けれど――。
「……やるしかない。逃げたら、もっと狙われるだけだ」
夕陽に照らされた校舎を見上げながら、静かに誓った。
次に待つのは、ライオットとの戦い。
そこで俺は、【記録】の本当の価値を示すことになるだろう。