第47話 「帝国軍、迫る影」
その夜、戦場に火の手が残る中で、王都から新たな命令が届いた。
――北部国境へ急行せよ。帝国軍との戦端が、ついに開かれる。
アレンたちは休む間もなく、傷ついた体を引きずりながら馬車に揺られた。道中、疲れ切った兵士の呻き声が途絶えるたび、リオナは必死に治癒の祈りを繰り返す。彼女の目の下には濃い隈が刻まれていた。
「無理すんなよ、リオナ」
ユウマが小声で声をかける。
「これ以上は、本当に倒れちまうぞ」
「わかってる……でも、見捨てられない」
彼女の瞳には迷いはなかった。
アレンはそんな二人のやり取りを横目に見ながら、拳を握った。
(守るって決めたんだ……俺が。二人だけじゃない。この国の未来も、民の命も。絶対に……!)
やがて夜が明け、曇天の下に北部の城塞都市が姿を現した。
そこはすでに戦火の予兆に包まれていた。避難を急ぐ民の列、槍を構えた衛兵たち、そして城壁の向こうに広がる帝国軍の旗。黒地に赤い双頭の鷲――ヴァルゼン帝国の象徴が、幾千も翻っている。
「数……多すぎだろ……」
ライラが唇を噛む。見渡す限りの兵。矢をつがえる弓兵、盾を構える歩兵、さらには魔導兵まで整然と布陣していた。
「少なく見積もっても五万。こっちは……せいぜい一万か」
副官の報告に、空気が一気に重くなる。
そんな中、敵陣から一騎の騎馬が進み出た。黄金の鎧を纏い、威風堂々と馬を進める男。
「……あれは」
アレンの背筋が粟立つ。
「ヴァルゼン帝国の将軍――〈烈火将〉ドルガン」
周囲の兵士がざわめいた。
ドルガンは炎の魔術を駆使し、一人で千の兵を焼き尽くしたと言われる猛将。その目は獲物を見据える猛獣のように鋭い。
彼は高らかに声を張り上げた。
「この城を明け渡せ! 抵抗すれば、男女老若問わず灰にする!」
恐怖が兵士たちを走った。だが、その時。
ユウマが前に出て、剣を掲げた。
「俺たちは……絶対に退かない!」
ドルガンの口元に冷笑が浮かぶ。
「ならば――火の海で死ぬがいい」
次の瞬間、帝国軍の合図と共に、無数の火球が一斉に飛来した。
夜を裂く炎が、城壁を焼き尽くそうと迫る。
「みんな、伏せろッ!」
アレンが叫ぶ。
轟音が響き、炎が炸裂する。
戦乱の第二幕が、今、幕を開けた――。




