第43話「王都の影」
戦いの余波が残る村を後にして、俺たちは王都へ向けて進んでいた。
道中で見たのは、避難する人々の列と、焼け落ちた集落の数々だった。戦乱はすでに水面下で始まっている――そう思わせる光景だった。
「……王都なら安全、ってわけでもなさそうだな」
ユウキが馬上から呟いた。
「むしろ、王都の方が危険よ」
エリスは険しい表情を浮かべる。
「戦争の火種は、まず権力のある場所で広がる。あの黒竜将軍も、必ず王都を狙って動くはず」
その言葉に、皆が黙り込んだ。
俺は拳を握り、心の中で誓う。――絶対に、誰も失わせない。
◆
一方その頃、王都アルヴェリア。
壮麗な王城の謁見の間では、各地から集まった将軍や貴族たちが、激しい議論を繰り広げていた。
「敵国ゼルドリアが軍を動かしているという報告が入っております! 国境の警備を増強すべきです!」
「馬鹿な、王都の守りを削って国境に回す気か!」
「だが王都に籠っていては、民の不満が募るばかりだ!」
怒号が飛び交い、議場は混乱の渦に包まれていた。
玉座に座る国王ライナルトは、重苦しい沈黙の中で皆を見渡す。その隣には、第一王女セシリアが控えていた。彼女の瞳には知性と強い意志が宿り、時折、父に代わって言葉を発していた。
「諸将、静まれ!」
セシリアの一声が、混乱を切り裂く。
「……情報が錯綜している今こそ、冷静な判断が必要です。黒竜将軍ヴァルガの存在を軽視すべきではありません。奴は必ず、この戦に介入してきます」
その名に、場の空気が凍りつく。
誰もが噂で耳にしていた。飛竜を操り、千の兵を一夜で焼き尽くす怪物の存在を。
「……王女殿下。もしヴァルガがこの国に現れるとすれば……どうなさるおつもりで?」
ある老将軍が問うと、セシリアは一瞬の迷いもなく答えた。
「迎え撃ちます。ただし――そのためには、新たな力が必要です」
その言葉に、場がざわつく。
「新たな力……まさか、例の勇者召喚計画を――」
「口を慎め!」
だが既に遅かった。議場の者たちは互いに視線を交わし、囁き合う。
――勇者。
遥か異界から呼び出される、伝説の戦士。だがその儀式は禁忌とされ、成功例は数少ない。
セシリアは視線を逸らさず、まっすぐに国王を見た。
「父上……この戦を乗り切るには、勇者の力が必要です」
王は深く目を閉じ、重い沈黙に沈んだ。
◆
俺たちが王都に着いたのは、それから数日後のことだった。
巨大な城壁に囲まれた都は、表面上は賑わいを保っていたが、空気は張り詰めていた。兵士の数が多く、街角では密偵のような影が動いている。
「……やっぱりただ事じゃないね」
リナが肩をすくめる。
俺は仲間たちを見渡した。
「ここで得られる情報が、今後を左右するはずだ。慎重に動こう」
だが、王都の奥で進行している陰謀を、この時の俺たちはまだ知らなかった。
勇者召喚――その禁忌の儀式が、俺たちの運命を大きく揺さぶることになるなど、予想もしなかったのだ。




