第42話「黒衣の魔導士」
燃え残る村の跡地に、まだ煙が漂っていた。
焼け焦げた木材の匂いと、焦土に立ち尽くす人々のすすり泣き。そんな中で、黒衣の魔導士――セリアは冷然と歩み寄ってきた。
彼女の存在は異様だった。長い黒髪を背に流し、透き通るような白い肌。その瞳は氷のように冷たく、近づく者を拒むかのような威圧感を放っている。
「……助けてくれたことには礼を言う」
リュウガが剣を納めつつも、警戒を解かずに言った。
「だが、お前は何者だ? なぜ俺たちを救った?」
セリアは一瞥するだけで答えた。
「誤解するな。助けたわけではない。……あの将軍にとって、今はお前たちを殺す時ではなかった。それだけだ」
吐き捨てるようなその声音に、ユウキが苛立ちを隠せず踏み出す。
「ふざけるな! じゃあ俺たちの命なんて偶然助かっただけだってのか!」
しかし、エリスが彼を制した。
「ユウキ、待って。……彼女の力は本物よ。今の私たちじゃ到底勝てなかった」
沈黙の中、ミアが恐る恐る口を開いた。
「あ、あの……セリアさん、ですよね。どうして、あの将軍と……戦っているんですか?」
セリアは少しだけ視線を伏せ、口を開いた。
「……あれは〈黒竜将軍ヴァルガ〉。この戦乱を裏で操る男の一人。奴を止めなければ、この大陸は炎に飲まれる」
彼女の言葉に、その場の空気が一変する。
リナが思わず問いただした。
「じゃあ、あなたは私たちと同じく……人々を守るために戦っている?」
だがセリアは即座に否定した。
「勘違いするな。私は誰も守らない。ただ……復讐のために奴を殺す。それだけだ」
復讐――その言葉に、全員が息を呑んだ。
「……誰を奪われた?」
リュウガが静かに尋ねると、セリアはしばし黙し、そして低く答えた。
「家族。村も、すべてを焼かれた。……だから私はヴァルガを殺す。それが生きる理由だ」
炎に照らされた横顔は、哀しみと怒りに染まっていた。
その場に重い沈黙が落ちる。仲間たちの心に複雑な感情が渦巻いた。
ユウキは拳を握りしめた。
「……復讐か。だが俺たちは守りたいんだ。人々を。仲間を」
「なら道は交わらないな」
セリアは冷たく言い放つ。
だが――リュウガは首を横に振った。
「いや、交わるさ。お前の敵は、俺たちの敵でもある」
真っ直ぐな瞳に、セリアの視線が揺れる。だが彼女はすぐにそっぽを向いた。
「勝手にすればいい。ただし、私の邪魔をするなら……容赦はしない」
そう言い残し、彼女は背を向けた。
その姿を見送りながら、エリスが小声で呟く。
「……本当に、敵じゃないのかしら」
「少なくとも今はな」
リュウガは剣の柄を握りしめた。
「でも、俺は信じたい。あの冷たさの奥にあるものを」
彼の言葉に仲間たちは頷き、それぞれに覚悟を決めた。
――戦乱は、ますます苛烈になる。
そして新たに現れた黒衣の魔導士は、彼らの旅に不可欠な存在となるのか、それとも刃を交える宿敵となるのか。
その答えは、まだ誰も知らなかった。




