第41話「飛竜将軍の影」
村の上空に影が覆いかぶさった。
夜明けの光を裂きながら、漆黒の飛竜が羽ばたく。翼が風を切るたびに大地が震え、焼け跡の村人たちは恐怖に息を呑んだ。
「……飛竜、だと……!」
ユウキが唸る。見上げるその瞳に、圧倒的な存在感が映し出されていた。
飛竜の背に乗る男は、漆黒の鎧を纏い、巨大な斧を携えていた。鋭い眼光が村全体を見下ろし、声が雷鳴のように響く。
「俺の部隊を潰したのはお前たちか……。名を名乗れ、小僧ども」
その威圧感だけで、膝が砕けそうになる。だがリュウガは一歩前に進み、剣を握り直した。
「俺たちは――リュウガ。人々を守るために立ち上がった者だ!」
将軍は鼻で笑った。
「勇ましいが、愚かだな。戦乱は始まったばかりだ。お前たち程度が抗えると思うか?」
言葉が終わるよりも早く、飛竜が口を開いた。次の瞬間、炎の奔流が村を襲う。
「下がれっ!」
リュウガが叫び、全員が散開する。轟音と共に大地が焼き裂かれ、炎の壁が広がった。
エリスが素早く剣を構えた。
「このままじゃ村人が――! 私が引き付ける!」
「無茶だ!」とリュウガが制止するが、彼女は飛竜の眼前に躍り出て剣を振るった。鋼と鋼がぶつかり、火花が散る。
だが将軍は微動だにしなかった。
「悪くない速さだ。だが……軽い!」
斧の一撃がエリスを弾き飛ばす。石壁に叩きつけられ、彼女は呻き声を上げた。
「エリス!」
ミアが駆け寄り、治癒魔法を施す。淡い光が傷口を覆ったが、衝撃の大きさは簡単に癒せるものではなかった。
ユウキが吼えるように突撃する。
「俺がやる……!」
渾身の剛力で飛竜の脚を掴み、地に引きずり下ろそうとする。だが飛竜は凄まじい力で暴れ、逆にユウキが弾き飛ばされた。地面に叩きつけられ、血が滲む。
「……なんて力だ……」
リナが必死に矢を射る。矢は飛竜の鱗に弾かれ、かろうじて目元を掠めた。飛竜が怒り狂い、炎を吐こうと大口を開く。
「止めろォッ!」
リュウガが咆哮し、剣に力を込める。刃に淡い光が宿り、炎の奔流を切り裂いた。轟音が響き、炎と光がぶつかり合う。
だが将軍は笑った。
「面白い……小僧、お前は少しは楽しませてくれるようだな」
次の瞬間、斧が振り下ろされる。リュウガは剣で受け止めたが、衝撃で足元の地面が砕けた。腕が痺れ、全身が悲鳴を上げる。
(……勝てない! 今の俺たちじゃ!)
必死に立ち向かうが、一撃ごとに力の差を突きつけられる。仲間たちも同じだ。傷付き、倒れ、それでも必死に立ち上がる。だが、その差は埋まらない。
「このままでは全滅する……!」
リナが叫んだ瞬間、飛竜が再び炎を吐こうとした。
だが――突如、轟音が響き渡った。
遠方から巨大な光の矢が飛来し、飛竜の翼を掠めたのだ。
「ぐっ……何者だ!」
将軍が怒りの咆哮を上げる。
炎に照らされて姿を現したのは、一人の女魔導士だった。漆黒のローブを翻し、冷たい瞳で将軍を睨む。
「……今はまだ、彼らを殺す時ではない」
その声に将軍が舌打ちをした。
「邪魔をするか、魔導士……いいだろう。だが次はないぞ」
飛竜が翼を広げ、空へと舞い上がる。轟音を残し、影は遠ざかっていった。
焼け焦げた村に、静寂が戻った。
仲間たちは地に膝をつき、息を荒げる。誰もが限界だった。
「……助かったのか?」
ユウキが呟く。
リュウガは剣を杖にしながら立ち上がり、遠ざかる影を見つめた。
「いや……あれは警告だ。次に会った時、本気で殺しに来る」
そして、彼らの命を救った謎の魔導士が、ゆっくりと歩み寄ってきた。
その瞳は冷たいが、どこかに決意を秘めていた。
「名は――セリア。……お前たちに、伝えなければならないことがある」
こうして、彼らの旅路は新たな局面へと進んでいく。




