第40話「戦乱の爪痕」
夜空を裂くように火の粉が舞い上がっていた。
遠くの村が炎に包まれ、その赤い光が城壁の上からでもはっきりと見える。風に乗って漂う焦げ臭さは、否応なしに現実を突き付けてきた。
「……間に合わなかったか」
リュウガが低く呟いた。拳を握りしめ、噛み締めるように唇を噛む。
彼らが向かっていた村――フラウ村は、すでに魔王軍の前線部隊に襲撃され、壊滅状態にあった。戦乱の波は予想以上に速く、そして容赦がなかった。
「生存者を探さないと……!」
ミアが真っ先に駆け出す。彼女の治癒魔法は仲間たちの命を何度も救ってきた。炎に照らされたその背中は、恐怖を押し殺しながらも必死に希望を探しているようだった。
エリスも後に続く。
「敵の残党が潜んでいるかもしれない。リュウガ、私が先導する」
彼女の剣には血が滲んでいた。だがその瞳には迷いはなかった。
瓦礫の山と化した村の中で、呻き声が微かに聞こえた。ミアが駆け寄り、崩れた屋根の下から子どもを抱き出す。
「大丈夫、大丈夫だから……!」
必死に呼びかけながら治癒魔法を放つ。温かな光が彼女の手から溢れ、泣きじゃくる子どもの傷を覆っていった。
その様子を見守りながら、リュウガは奥歯を強く噛んだ。
(守るはずだったのに……。俺は、また……)
過去の記憶が蘇る。かつての故郷も、同じように炎に包まれ、家族や仲間が失われていった。あの日の自分と、今の村人たちが重なる。胸をえぐるような痛みが走った。
「リュウガ!」
声に我に返ると、仲間たちが必死に村人を救出していた。エリスが剣で瓦礫を払い、ミアが治療を施し、ユウキが残骸を力ずくで持ち上げる。
その姿を見て、リュウガは深く息を吐いた。
「……俺もやらなきゃな」
彼は剣を抜き、残っていた敵兵の影を追った。焼け落ちた納屋の裏に、魔王軍の兵士が数人潜んでいた。炎に照らされ、狂気を宿した目がこちらを睨む。
「ここで終わらせる……!」
リュウガが駆け出す。剣が火花を散らし、夜の村に金属音が響き渡った。
激しい斬撃の応酬。相手の槍を受け流し、逆に懐へ踏み込み斬り払う。二人、三人と倒していくが、息を整える暇もなく次が来る。
「くっ……!」
額に汗が滲む。だが、背後から仲間の声が飛んできた。
「リュウガ、下がれ!」
矢の雨が頭上をかすめ、敵兵を次々と貫いた。援護していたのは弓使いのリナだった。彼女は村の高台に陣取り、正確無比な射撃で仲間を守っていた。
「遅れて悪い!」
リナが駆け寄り、笑みを見せた。
「これ以上、あんたを独りで戦わせない」
リュウガは思わず苦笑する。
「助かった……」
敵兵が全滅する頃には、東の空が白み始めていた。長い夜がようやく終わろうとしていた。
だが、瓦礫に囲まれた村の光景はあまりにも痛ましい。
ミアの治癒魔法でも助けられなかった者は多く、泣き崩れる生存者の声が辺りに響いていた。
「これが……戦乱の現実、か」
ユウキが呟き、拳を固く握る。
リュウガは村人の一人――震える老人に声をかけた。
「俺たちが必ず、この戦いを終わらせる。だから……どうか、生きてくれ」
老人は涙を流しながら頷いた。その手が、リュウガの手を強く握り返した。
その時、空に黒い影が差した。
巨大な飛竜に乗った魔王軍の指揮官が現れたのだ。
「お前たちか……俺の部隊を潰したのは」
その声は雷鳴のように響き渡る。鋭い眼光がリュウガたちを射抜いた。
仲間たちの表情が一気に緊張に包まれる。
戦乱は、まだ始まったばかりだった。




