第4話 模擬試験
学園に入ってから数か月。
ついに、最初の区切りとなる模擬試験の日がやってきた。
試験内容は単純だ。
ペアを組み、魔物に見立てた魔導人形を制限時間内に倒す。
評価は「攻撃力」「連携」「判断力」の三つ。
「へぇ、アレンと組むのはわたしか」
声をかけてきたのはリリアだった。
赤髪を後ろで束ね、木杖を肩に担ぐ彼女は、いつものように快活に笑う。
「心配するなよ。わたしが大魔法で全部吹き飛ばすから」
「……いや、それだと俺の評価がゼロになるんだけど」
苦笑すると、リリアは肩をすくめた。
俺が“最弱”と呼ばれてきた過去を思えば、そう言いたくなる気持ちも分かる。
だが今回は違う。俺のスキルが、本当にどこまで通じるのかを確かめる機会だ。
試験開始の合図が響く。
広い闘技場に立ちはだかったのは、鉄でできた魔導人形。
人間の二倍はある巨体が、重い足音を響かせながら迫ってくる。
「アレン、下がってろ!」
「いや、俺もやる!」
リリアが杖を振るい、火球を放つ。
炎が人形の胸に直撃した瞬間、俺の視界に文字が浮かんだ。
【魔法を記録しました:ファイアボルト】
――もう慣れた感覚だ。
俺は同じ呪文を唱え、炎の玉を放つ。
ズドンッ!
二発の火球が連続で命中し、巨体がぐらりと揺れる。
「……えっ? 今の、アレンが……?」
リリアが驚きの声を上げる。
「まだまだいける!」
巨体が腕を振り下ろし、地面が砕ける。
とっさに俺はカイルとの稽古で記録した「剣技」を思い出し、木剣を構えた。
振り下ろされた腕を斬り払う。
木剣とは思えない鋭さで軌道をなぞり、人形の関節を削ぎ落とした。
金属片が飛び散り、観客席から歓声が上がる。
「嘘……! アレンってこんなに戦える人だったの……!?」
だが。
連続して技を再現したその瞬間、急に膝が震えた。
胸の奥が重くなり、息が荒くなる。
「……っ、これは……」
分かった。
【記録】した技を何度も使えば、その分だけ負担が俺に跳ね返ってくる。
万能ではあるが、無限じゃない。
「アレン! 大丈夫!?」
「……ああ。心配するな。まだ……やれる!」
俺は歯を食いしばり、最後の一撃に全てを込めた。
木剣を振り下ろす。
リリアの火球と同時に命中し、魔導人形は轟音を上げて倒れ込んだ。
静まり返る会場。
そして次の瞬間、拍手と歓声が爆発した。
「すごいぞ!」「あれが“最弱”のはずがない!」
リリアが息を弾ませながら笑う。
「アレン……やっぱりあなた、ただ者じゃないわね」
俺は荒い呼吸を整えつつ、拳を握る。
――まだ不完全。だが、確かに力を示せた。
これから先、もっと大きな試練が待っているだろう。
それでも俺は、決して退かない。
必ず証明してみせる。
最弱と蔑まれたこのスキルで――最強になれると。