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最弱スキル《記録》しか持たない俺、気づけば世界最強の英雄になっていた  作者:
戦乱編

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第36話 「戦乱の兆し」

荒野を渡る風が、乾いた砂を舞い上げた。

 アレンたち一行は、王都から北に三日の距離にある国境地帯に到着していた。ここは長年にわたり隣国との小競り合いが絶えぬ土地。最近では本格的な戦の火種が芽吹いていると噂されていた。

「……やはり、緊張感が漂ってるな」

 アレンは腰に下げた剣の柄に自然と手を添える。周囲には旅人や商人の姿はなく、代わりに鎧をまとった兵士たちが行き交っていた。彼らは誰もが険しい表情を浮かべ、道端の草むらにすら視線を走らせている。

 隣を歩くリナは、空気の重さに肩を竦めた。

「うわぁ……なんか空気がぴりぴりしてる。あたし、戦場って初めてだから落ち着かないよ」

「俺も似たようなものだ」アレンは苦笑した。「だが、俺たちがここに来たのは偶然じゃない。何か役割があるはずだ」

 後ろから追いついてきたフェリスが、髪を押さえながら口を開いた。

「魔力の流れも乱れています。地脈が荒れているような……このまま戦争が始まれば、大地そのものが傷つきます」

「戦争が人間だけの問題じゃなくなるってことか」

 アレンは眉を寄せた。彼の脳裏に浮かんだのは、村で目にした焼け落ちた家屋と、泣き叫ぶ子供の姿。あの惨劇を繰り返させるわけにはいかない。

 その時、国境の砦から角笛が鳴り響いた。低く重々しい音が大地を震わせる。

「敵襲──っ!」

 兵士の叫びが響いた。

 次の瞬間、砦の向こう側から黒煙が立ち上る。やがて砂塵の中から現れたのは、赤い旗を掲げた騎馬兵団だった。槍を構えた数百の兵が、一斉にこちらへと駆けてくる。

「まさか……もう始まったのか!?」

 アレンが驚愕する間もなく、砦の兵たちが応戦の態勢に入る。弓兵が矢を番え、砲台から火矢が放たれた。

 リナは慌ててアレンに縋った。

「ちょ、ちょっと! 私たちまで戦うの!?」

「この状況じゃ巻き込まれるのは避けられない」

 アレンは決意を込めた目で仲間を見渡した。「ただし無闇に突っ込むんじゃない。俺たちは“戦争を止める”ために動くんだ。いいな?」

「了解しました」

 フェリスは杖を握り、魔力の波動を整える。

 アレンは剣を抜き放ち、駆けだした。兵と兵が衝突する轟音、鉄のぶつかる甲高い響き、悲鳴や怒号が入り混じり、世界は一瞬で修羅場と化す。

 だがその中、アレンの耳には不思議な声が届いていた。

『勇者よ。これは始まりにすぎぬ。真の戦乱は、この地を超えて世界を呑み込むだろう』

 脳裏に直接響くその声に、アレンは立ち止まる。

「……誰だ!?」

 返事はない。ただ戦場の轟音だけが広がっていた。

 再び剣を握り直したアレンは、自らの胸に刻む。

(この戦を止める。そのために俺はここにいる)

 赤旗の兵が突進してくる。アレンはその槍を受け止め、渾身の力で弾き返した。仲間たちもそれぞれの力を発揮し、戦乱の渦中へ飛び込んでいく。

 その戦いが、後に「戦乱の序章」と呼ばれる大戦の幕開けであることを、この時のアレンはまだ知らなかった。

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