第34話 王都ルクシアへの到着
高い城壁と白亜の塔が、陽光を反射して輝いていた。
その壮麗な姿を見上げ、アレンは思わず足を止める。
「……これが、王都ルクシア……」
旅を始めてから幾つもの街や村を訪れてきたが、王都の威容は別格だった。巨大な門の前には数百人規模の人々が列をなし、兵士たちが厳しい表情で行き交っている。商人の荷馬車、旅人、冒険者、そして異国の使節らしき姿まで見える。
「すげぇな……俺の村の何百倍だ?」
ガルドが腕を組み、口をぽかんと開ける。
「これだけ人が集まるってことは、それだけいろんな思惑も入り乱れるってことね」
リリアは冷静に周囲を観察していた。
ミアは少し不安そうにアレンの袖を掴んだ。
「……なんだか、空気が重たい。笑っている人もいるけど、兵士さんたちの顔が、すごく張り詰めてる……」
その言葉に、アレンも同意せざるを得なかった。確かに、王都全体を覆う雰囲気は賑やかさの裏で緊張している。戦争前夜のような、そんな気配。
やがて一行は入城検査の列に並んだ。
兵士が次々と旅人に質問を投げかけ、荷物を調べている。
「身分証を提示してください」
アレンたちの番になると、鋭い目をした兵士が声を張り上げた。
アレンは冒険者カードを差し出す。リリアやガルドも同じようにカードを見せ、ミアは教会発行の証明書を示した。
兵士はカードを一枚ずつ確認し、眉をひそめる。
「……Eランクの冒険者? それに治癒師に……魔法士か」
少しの沈黙。だが、兵士はやがてうなずき、通行証を差し出した。
「よし、通っていい。ただし――王都では不用意な行動は控えろ。特に“勇者”を名乗る者には注意を払え」
「……勇者?」
アレンの胸がひやりとした。
兵士はそれ以上語らなかったが、王都では何かしら勇者にまつわる動きがあるのだろう。
王都の中へ足を踏み入れた瞬間、視界が一気に広がった。
石畳の大通りの両側には華やかな店が立ち並び、色とりどりの旗が風に舞っている。
人の数も、地方都市の比ではない。見渡す限りの人波が行き交い、活気に満ちていた。
「おお……これは圧巻だな」
ガルドが目を輝かせる。
「でも、やっぱり……」
ミアの声は不安げだった。
よく見ると、兵士たちが至る所で巡回しており、通りの角では鎧姿の兵団が待機している。市民の笑顔の裏で、緊張の糸がぴんと張り詰めているようだった。
そんな中、アレンたちは冒険者ギルドの王都支部を目指した。
だがその途中、広場で大きな人だかりを見つける。
「……何だ?」
人々の視線の先には、一人の若者がいた。
黄金の髪を持ち、背に豪奢なマントを羽織り、手には聖剣と呼ぶにふさわしい剣を携えている。
彼は堂々と人々の前に立ち、宣言していた。
「民よ、安心せよ! 我が名はレオン=ヴァルク。神に選ばれし“勇者”だ! この剣と共に、迫りくる戦乱からこの国を救ってみせる!」
周囲から歓声が湧き上がる。
「おお、勇者様だ!」
「これで我らの国は安泰だ!」
アレンは思わず立ち尽くした。
――勇者? 俺の力は偽物か、本物か……?
胸の奥に重たいものが落ちるのを感じながら、アレンは黄金の勇者を見つめ続けていた。




