第31話 戦乱の幕開け――北方遺跡への道
冷たい風が俺たちの頬を打ち、雪混じりの雲が空を覆っていた。
目指すは北方の遺跡――古代兵器が眠るとされる場所だ。
ヴァルドがすでに動き出したという情報を得て、俺たちは町を発ち、北へ北へと進んでいた。
「にしても……寒いな」
ガイルがぶるりと体を震わせる。
「文句言わないの」リィナが火球を手のひらに灯し、彼の前に差し出した。「ほら、これで少しはマシでしょ?」
「おお、助かる!」
焚き火代わりの火球に手をかざすガイルを見て、フィンが笑った。
「こういうときだけリィナに頼るんだな、お前は」
「うるせぇ!」
笑い声が吹雪に消えていく。
だが、そんな中でもカイルだけは黙々と前を見据えていた。
「……どうした、カイル?」
俺が声をかけると、彼は雪を踏みしめたまま答えた。
「この先に、遺跡への入り口がある。だが注意しろ。俺が見たときにはすでに魔物が巣食っていた。ヴァルドの配下が放ったのかもしれん」
全員の表情が引き締まる。
昼過ぎ、ようやく遺跡の入り口に到着した。
雪に埋もれた古代の石造りの門。その表面には見たことのない文字が刻まれている。
「……古代文字だな」ソラが壁に触れる。「ここに書かれているのは“竜王兵、眠るべし”」
俺たちは息を呑んだ。
カイルが言っていた伝説の兵器――竜王兵が、この奥に眠っているのか。
その瞬間だった。
ズシン……!
地響きが鳴り、遺跡の奥から巨大な影が現れた。
全身が黒い甲殻に覆われた獣――目は赤く光り、口からは熱気が噴き出している。
「グォォォォォ!」
その咆哮だけで雪が吹き飛んだ。
「出たな……守護獣か!」
ガイルが剣を抜き、俺はすぐに仲間たちに指示を出す。
「リィナ、フィン、援護! ソラは幻影で奴の目を惑わせろ! カイル、俺と一緒に正面だ!」
仲間たちが散開し、戦闘が始まった。
フィンの矢が獣の目を狙うが、分厚い甲殻に弾かれる。
リィナの炎が体を焼くも、獣は怯むどころか逆に怒り狂った。
「硬すぎる……!」リィナが叫ぶ。
だが俺は【記録】の力で獣の動きを読み続けていた。
攻撃のパターン、体の動き、そして――
「カイル! 背中の甲殻、中央が薄い! そこが弱点だ!」
「了解!」
カイルが一気に距離を詰め、渾身の一撃を叩き込む。
――ガキィン!
甲殻が割れ、獣が苦悶の声を上げた。
だが守護獣は倒れない。
怒りに任せて暴れ回り、雪原が一瞬で戦場に変わった。
「くそっ、しぶといな!」ガイルが歯を食いしばる。
「アレン、何か手は!?」ソラが叫ぶ。
「……ある」
俺は剣を握り直し、【記録】の力を限界まで解放した。
これまでの戦闘データをすべて重ね合わせ、最適な一撃のタイミングを割り出す。
「カイル、もう一度だ! 今度は俺が囮になる!」
「分かった!」
俺が正面から飛び込み、獣の注意を完全に引きつける。
巨体の爪が迫る瞬間――
「今だ、カイル!」
「はああああああっ!」
カイルの剣が背中の傷口に深く突き刺さり、ついに守護獣が絶叫と共に崩れ落ちた。
雪の中に倒れる巨体を見下ろしながら、俺たちは息を整えた。
「……やったのか?」フィンが呟く。
「ああ、勝ったな」俺は頷いた。
だがその時――遺跡の奥から、不気味な笑い声が響いた。
「ククク……なるほど。ここまでやるとはな」
現れたのはヴァルドだった。
「古代兵器を狙ってるのはお前だな!」俺が叫ぶ。
「そうだ。竜王兵は我が手に渡る。貴様らがいくら足掻こうと、な」
ヴァルドの手には黒い魔石が握られていた。
「しまった……!」カイルが息を呑む。「奴、もう封印の鍵を手に入れたのか!」
「次会うときが、貴様らの終わりだ」
ヴァルドはそう言い残し、闇の中に消えた。
遺跡に残されたのは倒れた守護獣と、封印の解かれた扉だけだった。
「アレン……これ、まずいんじゃない?」リィナが顔を曇らせる。
「ああ。戦乱が始まる。これはその序章にすぎない」
俺たちは互いに頷き合い、次なる戦いへの覚悟を固めた。
こうして、竜王兵を巡る戦いは本格的に幕を開けた。
次なる戦場は――王国全土。
俺たちの旅は、ここからさらに苛烈さを増していく。




