第28話 本拠地突入前夜――決意の灯
迷宮が崩れ落ち、廃都の地上へと戻った俺たちは、しばらく言葉を失っていた。
月明かりに照らされた瓦礫の中、戦いの熱気だけがまだ肌に残っている。
「逃げられたな……」
ガイルが大剣を地面に突き立て、息を吐く。
「ああ。でも次で終わらせる」
俺は拳を握りしめ、崩れた迷宮の方を見つめた。
ヴァルドは本拠地へ戻った。次に待っているのは、間違いなく総力戦だ。
「アレン、本拠地に突入する前に準備が必要だ」
ソラが冷静に告げる。
「準備って、装備か?」
「装備もだが……仲間の力をもっと引き出す必要がある。あの迷宮でわかっただろう。今のままじゃヴァルドを倒せない」
ソラの言葉に、全員が静かに頷いた。
迷宮下層での戦いは勝ったが、あれは前哨戦にすぎない。
本拠地では、あの何倍もの敵と、ヴァルド自身の本気が待っている。
「フィン、どうだ? 矢の数はまだ残ってるか」
「ぎりぎりだな。新しい矢を作るには素材がいる」
「リィナ、魔力の消耗は?」
「半分くらい残ってるけど、もう少し強力な魔法を覚えないと……次はもっと大きな戦いになるわ」
「ガイルは?」
「剣はまだ使えるが、もう一本予備が欲しいな。あの迷宮じゃ何が起きるかわからねえ」
全員が装備と力の不足を痛感していた。
「アレン、お前自身はどうだ?」
ソラが俺に問う。
俺は一瞬答えに詰まった。
【記録】の力は確かに便利だ。敵の動きを見抜き、戦況を把握できる。
だが、それだけだ。
「……もっと強くならなきゃいけない」
俺は正直に答えた。
あのヴァルドの本気を前にして、今のままじゃ仲間を守れない。
だからこそ、力が必要だ。
「じゃあ決まりね」
リィナが腰に手を当て、少し笑った。
「一度町に戻って、装備の補充と訓練をしよう。新しい仲間が加わるなら、このタイミングが一番いいわ」
「新しい仲間か……」
俺は迷宮の奥で見た、あの影の戦士を思い出していた。
ヴァルドの配下に囚われていたが、どこかで目が合った気がした。
もし彼を救い出せれば、きっと強力な味方になるはずだ。
町に戻る途中、仲間たちとほとんど会話はなかった。
それぞれが迷宮での戦いを反芻し、次の戦いに備えていたのだと思う。
俺の頭の中も同じだった。
ヴァルドは次、確実に本気を出してくる。
しかも本拠地には、まだ見ぬ強敵が待っているはずだ。
今のままじゃ勝てない――その予感があった。
「ねえ、アレン」
隣を歩いていたリィナが、ぽつりと声をかけてきた。
「あなた、次の戦いが怖い?」
俺は少しだけ考え、そして頷いた。
「怖いさ。でも――仲間を守るためなら何度だって立ち向かう」
その言葉に、リィナは少し微笑んだ。
「……なら、私も覚悟を決めなきゃね」
彼女の横顔を見て、俺は胸の奥が熱くなるのを感じた。
町に戻ると、すぐに準備が始まった。
鍛冶屋で武器を新調し、魔法道具店でポーションを買い込み、リィナは新しい魔法の書を手に入れた。
フィンは矢を補充し、ガイルは新しい剣を二本も作らせた。
ソラは魔法研究者と情報交換をして、ヴァルドの魔法の弱点を探っていた。
「アレン、これを」
ソラが俺に差し出したのは、小さな魔石だった。
「これは?」
「君の【記録】の力を増幅する装置だ。まだ不完全だが、戦いの中で君自身の力と共鳴すれば……新しい能力が開花するかもしれない」
「新しい能力……」
俺は魔石を受け取り、強く握りしめた。
次の戦いでは、必ず力が必要になる――そう確信していた。
夜になり、俺たちは町の宿屋に集まった。
出発は明日。次はヴァルドの本拠地への突入だ。
「全員、準備はいいか?」
俺の問いに、ガイルが笑い、フィンが親指を立て、リィナが頷いた。
「必ず勝とう。もう仲間を失わないために」
俺の言葉に、全員の目が決意に燃える。
こうして、本拠地突入前夜は静かに、更なる戦いの幕開けを告げていた――。




