第26話 幻影使いヴァルドとの初交戦
廃都の中心部――古の石畳に立ち、俺たちはヴァルドと対峙した。
霧の中から響く低い笑い声。
ヴァルドの影がゆらりと揺れ、次の瞬間には五体、十体と増えていく。
「幻影か……」
ガイルが大剣を構える。
だが、動きも気配も本物と見分けがつかない。偽物だとわかっていても、刃が届くのは一体だけ――それが奴の幻影魔法の恐ろしさだ。
「抜けられるものなら抜けてみろ。ここは俺の庭だ」
ヴァルドの声が四方八方から響く。
まるで迷宮そのものが奴の魔法に取り込まれたかのようだ。
「アレン、どうするの?」
リィナが炎を灯しながら問う。
「まずは幻影の本体を探し出す。だが――」
俺は剣を握り直し、周囲を見渡した。
視界の中でヴァルドの影が次々と現れ、攻撃を仕掛けてくる。
だが、切り裂いても切り裂いても煙のように消えるだけ。
「ちっ、キリがねえ!」
ガイルが斧で影を薙ぎ払い、フィンが矢を放つ。
だが、どれもすり抜けていく。
「幻影を倒しても意味がない。奴の本体を見つけなきゃな」
俺は奥歯を噛みしめ、【記録】を発動した。
視界に映る情報を一瞬で記録し、動きの違い、魔力の流れを分析する。
――いた。
ほんの一瞬、魔力の濃度が異常に高い影があった。
それが本体だ。
「右奥だ! 本体は右奥の影!」
俺が叫ぶと同時に、ガイルが地面を蹴り、一直線に突っ込む。
しかし――
「甘いな」
ヴァルドの声とともに、地面が隆起し、ガイルの前に巨大な石壁が現れた。
罠と幻影の複合魔法。
ヴァルドはこの迷宮そのものを自在に操っている。
「くそっ、動きが読めねえ!」
フィンが矢を連射し、リィナが炎の魔法で石壁を破壊する。
だがその間にヴァルドの影が再び増殖し、戦場は混乱の渦に飲み込まれていった。
「このままじゃ埒が明かない……!」
俺は呼吸を整え、頭の中で戦術を組み立てる。
「ソラ!」
「わかってる。幻影に幻影を重ねるわ」
ソラの瞳が光り、俺たちの周囲に偽の影が生まれた。
今度は俺たち自身が幻影をまとう。
「ふむ……面白い」
ヴァルドの声が少しだけ揺れる。
俺たちが本物か偽物かわからない――同じ土俵に引きずり込んだのだ。
「ガイル、正面から突撃! フィンは右、リィナは援護!」
俺の指示で全員が一斉に動いた。
幻影の中で戦場が混線し、ヴァルドの動きが一瞬遅れる。
その隙に俺は【記録】を重ね、本体の位置を確定させる。
「そこだッ!」
俺は一直線に走り、影を切り裂いた。
血飛沫が舞い、ヴァルドの身体がよろめく。
「ほう……やるな」
奴は笑いながらも、確かに傷を負っていた。
「これで終わりじゃねえ。まだ罠は残ってるだろ」
俺は剣を構え直す。
だがヴァルドは余裕の笑みを浮かべたまま、後退していく。
「次は本拠地で会おう。ここは前哨戦にすぎん」
瞬間、廃都の床が崩れ、俺たちは下層へと落ちていった。
瓦礫の中で目を覚ますと、そこはさらに複雑な迷宮だった。
天井から滴る水、絡み合う根、そして無数の魔法陣。
「ここからが本番かよ……!」
ガイルが歯を食いしばる。
だが俺は剣を握りしめ、仲間たちを見渡した。
「次こそ奴を倒す。ここで終わらせるぞ」
迷宮の奥、ヴァルドの笑い声が再び響き渡った――。




