第25話 廃都潜入――幻影と罠の迷宮
月明かりの下、霧に覆われた廃都が姿を現した。
崩れた石造りの門、絡みつく蔦、そして夜風に揺れる古の旗――かつては栄華を誇った都も、今は蛇の牙の巣窟だ。
俺たちは低い姿勢で門に近づき、ソラの幻影魔法が展開される。
夜の闇がさらに濃くなり、俺たちの姿は影に溶けていった。
「幻影展開……これで、しばらくは気配を消せるはずよ」
ソラが静かに告げる。
仲間の視線が一斉に彼女へと集まる。幻影魔法は仲間全員を包み、足音も気配も消し去った。
「すげえな……まるで姿が消えたみたいだ」
フィンが感嘆の息を漏らす。
「感心してる場合じゃない。罠があるはずだ」
俺は慎重に地面を踏みしめた。
廃都の入口は沈黙しているが、嫌な気配が空気に混ざっている。
最初の罠はすぐに見つかった。
石畳の隙間に仕込まれた魔力式の地雷。踏めば爆発し、炎の罠が展開される仕組みだ。
「記録開始――」
俺はしゃがみ込み、視界に罠の魔法陣を収めた。
【記録】が光り、魔法陣の構成を瞬時に把握する。
脳裏にその仕組みが刻まれ、解呪の手順が見えた。
「解呪完了。これで一つ目は安全だ」
「お前のスキル、本当に便利だな」
ガイルが小声で笑う。
「でも、この数だと全部解いてたら時間がかかるわね」
リィナが炎を灯しながら呟く。
確かに、廃都全体に仕掛けられた罠の数は膨大だ。
そのとき、奥から気配が迫った。
ソラの幻影がわずかに揺らぎ、俺たちは一斉に武器を構える。
「敵……か?」
フィンが弓を構え、矢を番える。
霧の中から現れたのは、蛇の牙の斥候たちだった。
黒いマントを羽織り、短剣を手にした三人の影が、こちらを探るように進んでくる。
「まだ気づかれてはいない……どうする?」
ガイルが小声で問う。
俺は一瞬考え、指で合図を送った。殲滅。
フィンの矢が音もなく放たれ、一人目の喉を貫いた。
斥候は声を上げる暇もなく倒れる。
残りの二人が振り向いた瞬間、ガイルが影のように飛び込み、剣で二人を斬り伏せた。
戦闘は一瞬で終わった。
俺たちの存在はまだ知られていない。
「さすがだな。音ひとつ立てずに倒しやがった」
ソラが感心したように呟く。
「ここからが本番だ。気を抜くなよ」
俺は仲間に合図し、さらに奥へと進んだ。
廃都の中心に近づくにつれ、罠は複雑さを増していった。
魔法陣と機械仕掛けが融合し、解呪には【記録】の力と魔法知識の両方が求められる。
リィナが炎で道を照らし、ソラが幻影で敵の視線を逸らし、リゼルが小さな回復魔法で仲間の疲労を癒やしていく。
連携がなければ進めない迷宮――それがこの廃都だ。
やがて、大きな門の前にたどり着いた。
古代文字で刻まれた封印魔法が、まるで生き物のように脈打っている。
「この先が本拠地……?」
リィナが息をのむ。
「いや、まだ中枢じゃない。だが、ここを越えれば幹部の一人が待っているはずだ」
俺は剣を握り直した。
霧の向こうに、低い笑い声が響く。
「来たか……アレン」
姿を現したのは、蛇の牙幹部の一人――“幻影使い”ヴァルド。
「ここから先は、幻影と罠の迷宮だ。抜けられるものなら抜けてみろ」
ヴァルドの目が怪しく光り、廃都全体が歪むように揺れた。
次の瞬間、俺たちの周囲は無数の幻影に覆われた。




