第22話 記録の進化と双牙の敗北
ザハルの双剣が闇を纏い、倉庫内に圧倒的な殺気が広がった。
まるで刃そのものが命を喰らうかのように黒い瘴気を滴らせ、仲間たちの動きが一瞬止まる。
「……あれはやばいわね」
リィナが魔法陣を構えながらも、顔を引きつらせて呟いた。
「アレン、気をつけろ。あの男、さっきまで本気じゃなかった」
ガイルが剣を構え直し、俺の背中に声を投げる。
「分かってる……ここからが本番だ」
ザハルは静かに前進し、双剣を交差させた。
「双牙流奥義――《影牙連斬》」
その瞬間、彼の姿が視界から消えた。
闇の中から稲妻のような斬撃が連続で襲いかかる。左から、右から、背後から、斜め上から――四方八方に殺意の刃が舞う。
俺は必死に受け止めるが、斬撃の一部が肩や頬を掠め、熱い血が飛び散る。
「くっ……速すぎる!」
【記録】で追いつこうとしても、ザハルの速度は視界が追うより早い。
「アレン!」
リゼルの治癒魔法が俺をかすめた傷口に光を灯す。
だがザハルの攻撃は止まらない。
「仲間に守られながら戦うか……だが無駄だ」
彼の双剣がリゼルを狙う。
「させるか!」
俺は瞬時に【記録】を発動し、ザハルの直前の攻撃軌道を脳裏に再生する。
そして――
「……見えた!」
連撃の起点を記録から逆算し、斬撃が始まる前に踏み込み、ザハルの懐に滑り込んだ。
ザハルが初めて目を見開いた。
「ほう……この速度に対応するか」
「いや……対応じゃない。俺の【記録】は――」
瞬間、脳裏に電流が走るような感覚があった。
目の前の剣筋、仲間たちの動き、倉庫内の敵兵――全てが一枚の地図のように俯瞰できる。
「未来の動きまで記録する……?」
新たな力の発現。いや、進化。
【記録】が今、この瞬間に【未来視】へと進化したのだ。
「行くぞ、ザハル!」
俺は彼の双剣の動きを一秒先読みし、全ての攻撃を紙一重でかわしながら斬り込んでいく。
ザハルの連撃が空を切り、俺の剣が彼の鎧を裂く。
「馬鹿な……俺の双牙流が、後手に回るだと!?」
ザハルの顔に初めて焦りが滲んだ。
「アレン、今よ!」
リィナが雷魔法を放ち、ガイルがその隙を突いて敵兵を一掃する。
戦場は一気に俺とザハルの一騎打ちの場となった。
「これで終わりだ――《未来記録:零閃》!」
俺は記録した未来の動きを利用し、彼の回避行動より早く斬撃を叩き込んだ。
ザハルの双剣が宙を舞い、彼の膝が地面に崩れ落ちる。
「……なるほど、カラムが負けたわけだ」
ザハルは血を吐きながらも笑った。
「だが、蛇の牙は……俺一人じゃない」
そう言い残すと、彼は黒い煙のような魔力を纏い、姿を掻き消した。
「逃げた……?」
俺たちは周囲を警戒するが、ザハルの気配は完全に消えていた。
倉庫に残されたのは、密売商人たちと蛇の牙の取引記録。
リゼルが手に取ると、その中には驚くべき情報が記されていた。
「この印章……蛇の牙の本拠地の手がかりかもしれない」
俺は血に濡れた剣を握りしめ、決意を固めた。
「蛇の牙……必ず根絶やしにしてやる」
港に朝日が差し込み、戦いの夜が終わりを告げた。




