第10話 夜を裂く刃
その夜、学園は不気味なほど静かだった。
昼間の喧騒が嘘のように、寮の廊下には人影もなく、窓の外では木々がざわめく音だけが耳に届く。
だが、俺は知っていた。
――この静けさの裏に、何かが潜んでいることを。
セシリアの部屋を出た時から、誰かに視線を感じていた。廊下を歩くたび、影がついてくる気配。
そして今夜、ついにそれが動き出す。
俺の部屋の前。扉を開けた瞬間、背筋を焼くような殺気が走った。
金属が鳴る。
次の瞬間、影が窓を突き破って飛び込んできた。
「アレン・クロード、だな……」
低くしわがれた声。全身を黒衣で覆った男たちが三人、部屋を囲むように立っていた。手には鈍い光を放つ短剣。
俺はすぐさま剣を構えた。
「……誰だ」
「答える必要はない。ただ命令通り、お前を消す」
返事と同時に、一人が疾風のように迫る。刃が月明かりを裂き、俺の喉元を狙った。
だが俺は、その動きを――見た。
【記録】発動。
昼間のライオットとの模擬戦、彼の剣筋、足運び、体の重心……すべてを脳裏に再現する。
男の短剣が迫る瞬間、俺は同じ軌道で剣を振った。
金属が火花を散らし、男の刃が弾かれる。
「なっ……!」
驚愕する暗殺者を無視し、次の一人の蹴りを紙一重でかわす。これもまた、ライオットの身のこなしを“記録”したからこそできた動きだ。
だが三人同時に来られれば、防戦一方になる。
俺の剣が一人を押し返した瞬間、別の男が背後から迫った。
「終わりだ!」
短剣が背中に届く、その瞬間――
轟音。
窓を破って、炎の矢が飛び込んできた。暗殺者の腕を焼き、短剣が床に落ちる。
「アレン!」
リリアだった。彼女の手には魔法陣の光が揺らめいている。
「援護する!」
リリアが次々と炎弾を放ち、暗殺者たちの動きを牽制する。俺はその間に呼吸を整えた。
【記録】はただ真似るだけじゃない。見た技を組み合わせ、新たな戦い方に昇華できる――それを今、証明する時だ。
ライオットの剣技に、リリアの炎魔法を重ねる。
「――燃えろ」
剣先に炎がまとわりつき、赤い軌跡を描いて敵を薙いだ。
ひとり、またひとりと暗殺者が倒れ、最後の男が呻き声を上げて逃げ去った。
部屋には焦げた匂いと血の臭いが漂い、俺は深く息を吐いた。
「……助かった、リリア」
「ありがとうは後でいいわ。これ、ただの賊じゃない」
リリアが倒れた男の腕の刺青を見せる。そこには蛇を模した紋章が刻まれていた。
「王国を裏で狙う“蛇の牙”……。まさか本当に動いていたなんて」
セシリアが言っていた脅威。それが現実となったのだ。
夜空にはまだ煙が立ち昇り、月が静かにそれを見下ろしていた。
これはただの始まりに過ぎない――そう、直感が告げていた。




