終章
呼び鈴も鳴らさず、扉に手をかける。扉には鍵がかかっておらず、簡単に中に入ることができた。
家の中は電気が一切ついておらず、カーテンも全て閉められていて薄暗かった。そんな雰囲気に反さず、物音も一切しなかった。
片手に包丁を持ち、足音を立てないよう慎重に歩く。しかし、外は生憎の大雨。服は勿論、靴下までもがぐっしょりと濡れてしまっており、音を鳴らさずに歩くことは不可能だった。
きゅぱっ、と水分を含んだ靴下が床から剥がれる音が、この静かな家の中に広がった。
家の中に人がいれば間違いなく気づく程度には音が鳴った。
しかし、それ以外の音は聞こえなかった。気づいていないのか、将又家には誰もいないのか。
一部屋一部屋メイを探して回ることにした。メイのことだから私の動きには既に気づいており、奇襲をしてくる可能性もある。
しかし、それが杞憂に終わったのは、最初に入った部屋にメイがいたからだ。
そこにはメイ以外に女の人もいた。しかし、首元から大量の血を流してソファに座りこんでいた。恐れく既に死んでおり、もし生きていたとしても助からないように見えた。
犯人は間違いなく、血のついた包丁をもったメイ。メイはSNSの投稿の通り、本当に母親を殺したんだ。そして、この後、私は殺されるんだ。全部嘘だって思いたかった。あのSNSも、本当は全くの別人なんだってここに来るまでは思っていた。しかし、この状況は流石に擁護できない。
「メイ、本当に、お母さんを殺したんだね」
その言葉にメイはなにも返さない。
「で、次は私を殺すんでしょう?私を殺したら満たされるんだっけ?馬鹿みたい」
これにも何も返さない。
メイの目はひたすらに虚ろで、何を見ているのかさっぱりわからない。
しかし、包丁を持っていない方の手でお母さんの頭を撫でており、それは小さな子供をあやす母親のように見えた。
「なんとか言ったらどうなの?私をいじめから助けてくれたのも、私に勉強を教えてくれたのも、私に見せてくれたあの笑顔も、全部嘘だったの?全部”人間”として見てもらうための演技だったの?」
そう言ったとき、メイに動きが見られた。
あの時と同じよう、私に近づきいてきた。
雨に濡れた髪、重くなった制服を一通り見渡し、私の顔を一瞥すると、「やっぱりかわいい」と一言。
もう、手遅れなんだ。メイは私のことなんか見ていなかった。サクラという枠組みだけを見て、それを壊すことだけを考えていた。
メイの考えを理解することはできる。しかし、共感はできない。
このままメイを野放しにすれば、次の”私”を見つけて壊しにかかる。そんなこと、
「ダメだよ。私がメイの”永遠の愛”になってあげる」
そういって私は、メイのお腹に向かって包丁を突き立てる。
「サクラ、それはとてもつまらないことだよ」