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プロローグ

 ――あぁ、サイレンが聞こえる。

 けたたましく響くのは救急車の音。腕の中の熱が自分の血か、抱きしめた少女の物かは分からない。

「……ッ!」

 全身が痛む。生まれつきガタイはよかったが、居眠り運転で突っ込んで来たトラックの前には、ゴミのような物だったんだろう。

 別に、抱きしめたこの子とは、縁もゆかりもない。けれど、トラックが赤信号の下を突き抜けて、歩道に向かって来た時に呆然とした姿を見てしまった時、自分の体はこんなに速く動けたのかと、驚くほどにコンクリ製の地面を蹴り、彼女に抱き着いたまではよかった。しかし、トラックの車幅は自分の跳躍距離よりも長かった。その結果が、血塗れになって転がる未成年二人組。

「……」

 腕の中の温もりが冷えていく。それに釣られて意識が遠のく。自分は何の意味もなく、命を投げ出してしまったようだ。

 ――神様とやらがいるのなら、今度生まれ変わる時には、中途半端な体にしないで、せめて自分の腕の中の人くらいは守れるくらい頑丈にしてもらいたいものだ……

 少年はささやかな祈りとも文句ともつかない思念を残して、その生涯に幕を下ろす。




「お嬢様!おやめください!!」

「お戻りください、あなたが出た所で結末は変わりません!」

 半ばもぬけの殻となった屋敷の中、二人の従者に追いかけられながら白い軍服に身を包んだ少女が走る。

「このままでは皆殺されるだけ……だったら、私が行くしかないでしょう!!」

「ですがお嬢様!恐れ多くも申し上げます!あなた様の腕では……!」

「確かに私は機械鎧の適性が高いとは言えません……それでも、機体を寝かせておくわけにはいかないでしょう!それに……」

 叫び返した少女……サヤは自嘲気味に笑って。

「あの機体なら確実に敵軍の注意を引けるはず。最後まで付き添ってくれたあなた達二人が逃げるくらいの時間は、作ってみせる」

 重々しい扉を開いた先は、機械鎧の格納庫になっており、その中心には純白の装甲に、両肩にそれぞれ盾と剣を搭載した機体が鎮座していた。

「私が機体を動かしたら、二人はすぐに逃げて。何かの拍子に、機体が転んでしまったら潰してしまうかもしれないでしょう?」

「「お嬢様!!」」

ついて来ようとする従者たちを手で制し、機体の腹部にあるコックピットまで伸びた足場を渡っていく。

「今までありがとう、二人共……!」

「そんな……お嬢様……っ!」

「私共は、いつまでもお帰りをお待ちしております」

 メイド服の裾をつまみ、頭を垂れた従者二人に見送られながら、装甲に隠された電子キーを叩く。展開した装甲の中には、拘束椅子のような物が一つ。

「お父様……見守っていて下さい……」

 握りしめた手を胸元に当てて、祈りを捧げてから中に乗り込んだ。シートに座り、手足を包み込むようにして拘束される。

「んっ……」

 一瞬だけ、電流がサヤの体を駆け巡った。機械鎧は巨大な人型機械兵器であり、その取扱いには搭乗者の神経電流を使う。物理的な接続はなくとも、神経と機体の間で電流のやり取りをするにあたって、搭乗時にこそばゆいと思う者もいれば、痛みを感じる者もいるのだ。

 ビクッ、体を小さく跳ねさせたサヤの視界が高く、広く、開かれる。脳内で処理される視覚情報が、自分の網膜に映された光景から、機体のマシンヘッドから送り込まれてくる観測情報に置き換えられた視界に、サヤは深呼吸を一つ。

「お願いだから、ちゃんと動いてね……!」

 機体の起動と同時に、伸ばされていた足場が離れていき、機体用の扉が開かれていく……光が差し込んでくる外の世界へ向けて、ゆっくりと第一歩を踏み出した。

「大丈夫、落ち着いて。外に出るだけでいいんだから……!」

 重々しい金属製の足音を響かせて、白い巨人が姿を現したのは、レンガ造りの家屋が並ぶ都市郊外。本来であれば建材によって赤味がかっていた街並みは戦火に燃えて、赤い光を遮るは無数の巨影。

「ティンロン……ピンジアの量産兵器……あんなものに、この町が……!」

 質より量、といえば聞こえは悪いが、それが大型兵器となれば話が違ってくる。機械鎧はそれ一つで戦況をひっくり返すほどの戦力足りえる存在だが、無論、性能を抑えた量産型も出回っており、サヤもまたそういった量産型への搭乗を想定して日々の研鑽を重ねる訓練兵でしかない。

 ティンロンはそんな一般的な量産型よりも性能を抑える事で、低コスト化に成功した機体だが、それでもサヤにとっては十分に脅威。

この機体は機械鎧同士の戦闘になれば、勝ち筋は数の暴力しかないような機体だが、その数が文字通りの桁違い。機械鎧が配置された戦線『以外』の場所にも十分な数を送り込む事で、歩兵部隊を殲滅。この国……ヒノモトとの戦線を本国まで押し込んで来たのが現状である。

 低スペック機体に自国が攻め立てられている事に、もどかしさを覚えたサヤは奥歯を噛む。

「この国も、もう……」

 無論、ヒノモト国内に機械鎧がないわけではない。むしろ、性能的に言えばピンジアのそれと比べればはるかに高い。だが、数が圧倒的に足りず、機体を配備しきれない戦線から切り崩されて攻め込まれ、今に至る。

 コックピット内で俯いてしまった少女は、顔を上げて一歩ずつ近づいてくる敵機を睨みつけると、歩みを進め始めた。

「せめて、あの子達だけでも……!」

 屋敷の中に残してきた従者たちが逃げる時間くらいは稼がねばならず、その間に戦闘に巻き込んでしまっては何の為に出てきたのか分からない。

 後ろの建物に近づかれる前に距離を詰めようと、少女が乗り込んだ白い機体が踏み込んだ瞬間、機体の脚部が滑って転倒。何もない所で倒れてしまった白い機械鎧を前に、ティンロン部隊は顔を見合わせてしまう。

「やっぱり、私じゃダメなのかな……だとしても、せめて道連れに……!」

 両手をついて立ち上がり、身構えようとするが頭部に幅広な刀身を持つ武器……青龍刀を叩き込まれて吹っ飛んでしまう。

「くぅ……!」

 直撃を食らってなお、サヤが乗った機体の装甲が堅いのか、敵の武器の性能が低いのか、機体そのものに傷はついていないようだ。それでも、人が頭を横薙ぎにぶん殴られれば脳震盪を起こすように、視覚情報がかき乱された機体と同期しているサヤも三半規管が狂わされてしまう。込み上がって来る吐き気に耐えている間に、背部に叩き込まれる衝撃。

 ぶん殴られて屋敷の塀に機体背部を打ちつけて、粉砕してしまったようだがそのことを認識する前に胸部を踏みつけられ、押さえ込まれてしまった。

「この……!」

 何とか機体を起こそうともがくサヤだが、頭上から分厚い刀身を持った武器で叩き伏せられて、両腕で頭部への直撃を防ぐことしかできていない。装甲の強度だけで言えば、守りに入る必要はないはずなのだが、パイロットの視覚情報と機体の観測情報が同期している為に、頭部への攻撃は自分の視界を凶器が埋めつくす事になり、パイロットは反射的に頭部を庇ってしまうもの。それが、訓練兵の少女ならばなおさら……。

「私は……こんな、所で……!」

 足蹴にされ、ただ殴られるばかりの自分が情けなくて、悔しくて。敵の武器を振り下ろされても傷一つつかない装甲は、機体の性能を自分が殺してしまっている事実を否応なく突きつけられているようで、コックピットの中。閉ざされた両目の端に、無力感が滲み始めて……。

『いってぇなぁ……』

「え……!?」

 急に頭の中に響いて来た少年の声に、驚いて目を見開く。視界に飛び込んできたのは、コンソールに映された自機を踏みつけるティンロンと自分の四肢を固定する操縦甲。

「あれ……鎧との同期が切れてる!?」

 しかし、操縦甲から手足を引き抜こうとすれば微動だにせず、機体のシステムはアクティヴェートされたままらしい。

「え?……え?」

 機体が起動したままだと言うのに、操作を受け付けない。OSがイカレてしまったのかと焦るサヤの前で、コンソールに映されるのは幅広な片手剣を両手で挟んで止め、身を捻ってティンロンを転倒させる自機の視界。

「鎧が……勝手に動いてる……?」

 ぐるりと世界が反転し、映し出されたのは空の青から炎の赤。そして破壊された街並みの中に立ち並ぶ黒い機械鎧の影……。

『……え?』

 視点が落ちて、機体のマニュピレーターが映されて、続けて西洋騎士のような装甲を辿り、脚部を見下ろしてから再び警戒状態のティンロンを映すと、左右に視界が揺れて視線が建造物と同じかそれ以上であることを確認し。

『なんっじゃこりゃー!?』

 絶叫。

「よ、鎧が喋った……!?」

『腹の中から声がする……え、何、怖い……』

 機体もパイロットも困惑している間に、ティンロンが動く。転倒した機体が跳ね起き、武器を構えて、片手を横に伸ばし、腰を落としてにじり寄る。先ほどとは明らかに動きが変わり、警戒心が高まった事が見て取れた。

『えーっと……どういう状況?』

 全身が特殊合金製の装甲だというのに、冷や汗をかいていると錯覚する人間臭い挙動をする白銀の機械鎧。ジリジリと迫りくる黒い金属塊の郎党に、深夜の町でカツアゲしに来るヤンキーを幻視する機械鎧と、中途半端に神経同期がされているためにその機体のイメージがサヤにも伝わり。

「な、なんだか見た事もないような服装のいかつい男性の集団が迫って来る光景が……?」

 命のやり取りをする極限的な状況だというのに、わけのわからないヴィジョンを送り込まれて混乱するサヤは逆に冷静になって。

「とにかく、コントロールを返して!戦わないと、屋敷の中の子達が……!」

『え、何、後ろの建物の中に人いるの……?俺、倒れたらまずいやつ!?ていうかそれどうやってやんの!?』

 後ろの屋敷と迫って来るティンロンを交互に見ながら慌て始める機械鎧。サヤが両手を挙げようとすれば、機械鎧の腕は肩に伸ばされて、マウントされていた剣と盾を構える。

「よかった、ちゃんと動かせる……」

『うわなにこれキモッ!体が勝手に動いてる!?』

 盾を前面に構えて、剣を握り込んで走り出す。まっすぐ敵に向かい、突進力に物を言わせて叩きつけた片手剣がティンロンの刃に防がれるも、勢い任せに叩き落して肩で突き飛ばし、転倒させながら機体の胸部に剣を突き立てる。心臓を穿たれたかのように赤黒い液体を噴き出すが、マシンヘッドのアイカメラが光を失った。

『え、死んだ?』

「コックピットは腹部!胸部には燃料タンクと動力炉が詰まっていて、そこを破壊されると機械鎧は動けなくなるの!殺してない!!」

 人間臭いロボットが、人気臭い倒れ方をした為に、中の人がいるのかと思っていた白い機械鎧にサヤが叫び返す。突き立てた剣を引き抜きながらすぐさま身を捻り、機体が連動して方向転換。

 背後から振り下ろされた、斬撃武器にしては分厚く鈍器には薄い刀身に盾を叩き込み、武器を吹き飛ばして民家の屋根に突き刺さらせると、がら空きになった敵機の胸部を刺し貫き、白かった自身の装甲を返り血染みたオイルに濡らしながら得物を振るい、動かなくなったティンロンを払い捨てる。

 瞬く間に二機を機能停止に追い詰めた白い機体を前に、残りのティンロン達がわずかに後退。自分が戦えている事を実感するサヤだが……。

「この調子ならいける……でも……」

『なんか問題でもあるのか?』

 状況だけみれば、決して悪くはない。だが、焦燥感を漂わせる少女は奥歯を噛み。

「私、機械鎧の操縦が下手で、歩かせようとしたいだけで転んじゃうくらい酷いの。だから、自分でもどうして二機も倒せたのか分からなくて……」

 戦場では理由の分からない優勢ほど不安になるものはない。無論、この状況で罠ということはないだろうが、サヤはまた何かの拍子にスッ転ぶのではないかとびくびくしているようだが。

『あー、そういうことか。さっきから体が妙な動き方をすると思ったら……』

「やっぱり、私がへたくそ過ぎて……?」

『いや、お前に俺がついていけてないんだと思うぞ。さっきからまだ足が地面についてないのに逆足を上げようとするような、奇妙な感じがしてる……転ばないように気を付けてるが、お前のせいか』

「え……私の操作に機体がついてきてないってこと!?」

 目を丸くしたサヤだが、意識を取られた隙にティンロンが飛び掛かって来るが、盾で殴りつけて後方へいなしながら撃墜すると、身を翻して斬り捨てる。噴き出したオイルの雨の中、剣の切っ先を後続へ向けた。

「これなら勝てる……!」

 サヤが勝利を確信した瞬間だった。たらり、鼻血が伝う。

「あ……れ……?」

 グラリ、急激に意識が遠のく。気絶に至る前に踏みとどまったが、視界はぐわんぐわんと揺れて……。

「なん……で……!」

 自分の出血を自覚した瞬間に全身が熱を持ち始めて、頭が内側から捻じれるような痛みに襲われる。コンソール端に映されたパイロットのバイタルデータは真っ赤に染まり、サヤの体に凄まじい負荷がかかっている事が示されていて。

「神経系に過剰負荷……?同期が中途半端だったから……?」

 パイロットが脱力してしまえば、機体もまた武器と盾を取り落し、だらりと両腕が下がる。

「嘘……動いて……動いてよ……やっと、戦えると思ったのに……」

 上半身をコンソールに預けて、四肢に力が入らないサヤには、もはや画面越しに外の状況を知る事もできず、悲しい、悔しいと言った感情よりも虚無感に溺れていく。機体を揺らす振動から、敵機が近づいてくる事だけは感じていて。

「あの二人は……逃げきれたかな……」

 静かに目蓋を降ろしたサヤを……上下に揺れる振動が襲う。

『急に動かなくなったと思ったら、体が軽くなったな……俺の中の人?が急に何もしなくなったのか?』

「鎧が……まだ動いてる……?」

 ティンロンが距離を詰めて来る中、剣と盾を手放した鎧は肘を伸ばし、脚を伸ばし、準備運動でもするようにリズミカルに機体を伸ばすが。

『うーん、解れた感じがしない……ロボットだからか……?』

 マシンヘッドをぐりぐり回しながら、奇妙な動きを始めた白い機械鎧を警戒して、ティンロンは狭めてきた包囲網を維持したまま、青龍刀を構える。

 追い詰められている現状に、白い機械鎧のアイカメラの光が絞られ、人間の表情を模しているのか、『怪訝な目』を表現すると。

『さて、さっきまであった体を引っ張られるような感じもないし、腹の中の声も聞こえない……ところが敵さんはまだまだやる気、と』

 武器を拾う素振りも見せず、拳を握って半身を引いた。

『こっちが悪いのか、そっちが悪いのか、俺には分からんが……後ろに逃げ遅れた人がいるらしい。引いてくれないんなら、相手になるぞ?』

『……』

 ティンロン側は外部スピーカーがついていないのか、意思の疎通を図るつもりはないのか、無言のまま武器を振りかざすが、ガァン!!

 けたたましい金属音と共に青龍刀が吹っ飛ばされて、ティンロンのマシンヘッドが上を向いた瞬間、蹴り上げた脚を引き戻して逆足の蹴りで打ち上げる。浮き上がった胴体に鉄拳を叩き込み、変形した胸部装甲が引きちぎれるように亀裂を走らせて、オイルが噴き出した。傷口からスパークを起こして動かなくなった機体をその場に座らせて、飛び掛かって来たティンロンの手元に裏拳を叩き込んで、剣戟を逸らす。腕を振るった慣性に身を任せて反転、体勢を崩したティンロンの顎に拳を合わせ、首を天高く吹き飛ばしてしまえば、視界情報を得られなくなった機体がよろめく。その胸部を蹴り飛ばして転倒させれば、倒された機体の陰から姿を見せた後続が既に距離を詰めていた。

 青龍刀で刺突の構えを取ったティンロンの吶喊に合わせて反転して背を向け乍ら軸を逸らし、やり過ごしながら拳を逆の手で包み、肘鉄を胸部に叩き込めば敵自身の突撃力を以て装甲を粉砕して赤黒いオイルを撒き散らした。

 ズルリ、崩れ落ちていく機体には目もくれず、肩越しに眼光を向ければ、残っていたティンロン達は後退り。

『こいつ等を連れて失せろ。こちらにこれ以上戦う意思はない。それとも、全滅するまでやるか?』

 白い機械鎧がその場から退き、腕を組んで仁王立ち。慎重に近づいて来たティンロン達は、自分達にとって現状最大の脅威が動かない事を確認しながら同胞を回収すると、撤退していく。

『……さーて、どうすっかなー』

 腹の中から聞こえていたはずの声は今、聞こえない。コックピットハッチを開いてやりたいところだが、自分には勝手が分からない機械鎧が立ち尽くしていると。

「「お嬢様!!」」

『おん?』

 瓜二つのメイドが二人、屋敷から駆け出して来るのが見えた。

『あーっと、お二人さん?ちょっと助けて欲しいんだが……』

 機械鎧は、二人の前で跪いて……。




「……あれ?」

 サヤが意識を取り戻して、ゆっくりと目蓋を開く。そこには見慣れた天井と、心配そうに自分を見つめる二人の従者。

「ヘレン……ヘレナ……二人共、無事で……」

「お嬢様!無理をなさらないでください……」

「お嬢様は脳への過剰な負荷により、気絶しておられたのです」

 傍から見ると違いが全く分からないが、判別がついているらしいサヤが体を起こすと、ヘレンが彼女の体を支える。

「やっぱり、神経同期が半端だったから……」

「いえ、お嬢様の情報処理能力が抜きんでていたが為に、機械鎧からのフィードバックを処理しきれなくなったようです」

「……どういうこと?」

 伝えられた情報を飲み込めていないサヤに、表情一つ変えない従者が言う事には。

「お嬢様が今まで機械鎧の操縦が下手くそだった理由は、機械鎧の方がお嬢様の神経伝達速度についていけていなかったから、ということです。そして、ハクジンは旧式の機体でありながら、そのお嬢様のスペックに相応しい機体だった、という事かと」

「ですが、お嬢様の演算能力が秀でていたからこそ、ヒトの脳が耐えられる負荷を越えてしまい、オーバーヒートを起こしてしまった、ということなのです!」

 だからもう少し休んでください!と、ヘレンに寝かしつけられるサヤには、まだ疑問が残っていた。

「それで……私が倒れた後って、どうなったの?」

 二人の従者は顔を見合わせて。

「信じがたい事なのですが……」

「ハクジンが勝手に戦ってたみたいです!」

『呼んだか?』

「へ?」

 急に、部屋が暗くなる。窓から覗き込むサヤが乗っていた白い機械鎧が顔を覗かせていて。

「いやーっ!?」

『何故叫ぶ!?』

 マシンヘッドに耳などついていないが、ビックリした拍子に大声を上げたサヤに、機械鎧は頭を抱えて。

『驚いたのはこっちだってーの!!』

「ハクジンに怒られた!?ていうか、喋ったり動いたり……なんなのあなた?やっぱり、ハクジンはただの機械鎧じゃない……?」

『ていうか、俺はハクジンじゃなくて、ジンっていう別人なんだけども』

 困惑するサヤと、叫んだ彼女をなだめようとする従者達の前で、機械鎧は自身後方に広がる、荒れ果てた街並みを眺めて。

『というか、正直状況が飲み込めていないんだが……何があったんだ?』

「今の世界情勢を、眠っていた機械鎧が知っているはずないか……」

「では、僭越ながら私から」

 消耗しているサヤに代わり、ヘレナが口を開くと。

「端的に言ってしまえば、現在世界大戦の真っただ中にあり、ヒノモトはピンジアの物量作戦の前に壊滅寸前の状況です。現在、ヒノモト国内まで防衛線を下げざるを得ず、この地が最終防衛ラインとなっていました」

『……もしかして、過去形?』

 機械鎧の確認に、サヤとヘレンはそっと目を伏せて、ヘレナが頷く。

「現在、国内に残されている戦力のほとんどは皇居の防衛に当てられて、国家としての存続を最優先にしています。国の象徴を失う前に停戦協定を結ぼうとしているのですが、ピンジアはこのままヒノモトを攻め落とし、植民地化を目論んでいるようです」

『なるほどねぇ……一応聞くけど、同盟国とかいないの?』

「ヒノモトは現在、ユニトリカとの協力関係にありますが、ユニトリカはピンジア側の同盟国、ルーシャとの睨み合いの状態にあり、こちらに戦力を送れない状態に陥っています」

『実質だーれも助けてくれないってことね』

 ため息でもついているのか、わずかに頭を下げる機械鎧にサヤは瞬きをして。

「それにしても、随分と人間臭いね……」

『人間臭いというか、俺、人間だったはずなんだけど……』

 機械鎧は自分の手を見つめて。

『死んだと思ったら、こんな体になってて……』

「ハクジンには高性能CPUを搭載していると聞いていたけど……人間を模したAIが組み込まれているなんて」

『いや、俺は人間だが?しっかり前世の記憶もあるんだが?』

「そこまで複雑なプログラムが組まれているって事ね」

 勝手に納得されて、信じてもらえない機械鎧がやるせない顔になっていると、サヤはカメラアイを見つめて。

「なんにせよ、これからよろしくね、ハクジン……ううん、ジン!」

『え、何が?』

 話についていけていないジンに、ヘレナが捕捉。

「あなたはサヤお嬢様の所有物です。そしてお嬢様は、ピンジアと戦うためにあなたを目覚めさせました。後は、お分かりですね?」

『戦争の道具になれと!?』

「なるのではなく、あなたは元々そういうモノでしょう」

『そりゃないぜ神様よォ!?』

 頭を抱えて崩れ落ちてしまうジンに、三人は疑問符を浮かべるのだった。


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