モテるって辛い
私は席を立ち、手紙を抱えたまま教室を出る。
大勢の生徒に注目される中、顔を暗くした紅葉が目に入った。
私と同じく大量の手紙を抱えている。
「あ、花恋、丁度いいところに。これ全部花恋宛ての手紙」
私と紅葉の仲が知れ渡っているのか、紅葉経由で私に手紙を渡してくる輩も多い。
手紙ではないが、私にも紅葉と似たような経験はある。
私を利用して三人と交流を持とうとする奴は多かった。それを私は面倒だから全て跳ね除けていた。
紅葉は性格上それができないから、いつも大量の手紙を抱えて渡してくる。
「貰うよ。今度からは私が迷惑してるって言って断っといて」
「そうしたいよ……。それどうするの?」
「捨てに行く」
「え、ええ……」
紅葉は眉を顰め、私の行為にあまり賛同的ではなかった。
「紅葉も私が酷いって思う?」
「気持ちは分かるよ。でもやっぱり、捨てるのには少し抵抗があるというか……」
「……好意の押し付けはたとえ相手が嫌がっていても良いのに、好意を受け取らなかったら悪になるのはどうして? 私、迷惑だから手紙寄越さないでっていつも机に貼ってるんだよ。でも、せっかく書いたからなのか知らないけどさ、朝来たらノートが入らないくらいびっしり入ってる。ねえ、これ私が悪いの?」
紅葉は気まずそうに、私と目を合わさないように顔を逸らした。
「……ごめん、ウチからは花恋が欲しがっている言葉はあげられない。でも、絶対責めないよ」
「そ」
私は腕一杯の手紙を外の大型のゴミ箱に入れ、手を洗った後何事もなかったかのように教室に戻った。
◇◆◇◆◇
「空瀬先輩! 好きです! 付き合って下さい!」
わざわざ教室という目立つ場所で人を呼びつけて言う事かと思う。
変なところで度胸があるよ全く。
まあ、校舎裏とかじゃ私が絶対行かないからだろうけど。
「無理。邪魔。消えて」
「れ、連絡先だけでも……」
「迷惑。去れ」
一年男子は肩を落として教室から出ていった。
今日だけで五回。
最近私が手紙を捨てている噂が広まったからか、ラブレター攻撃は無くなったが、逆にこうして告ってくる奴が増えてどちらにしろ困る状況である。
「空瀬、お前断るにしてももうちょっと優しくしてやれよ」
「優しくして希望残したくない。てか、なんで優華達は告られないどころか手紙一枚で大騒ぎしていたくせに、私は放置なわけ?」
「そりゃ、天乃さん達は見た目も性格も備えた我が校の高嶺の花だからな。憧れの存在を守ろうとするのは当然の事だろう。その点お前は容姿だけで中身はあれだからな。憧れもクソもねーよ」
「殴るよ?」
「お前が教えろって言ったんだろ!」
「何々痴話喧嘩〜?」
考えうる中で最悪な野次だよ。流石は裏切り者。
「こいつと痴話喧嘩するくらいならあんたの名前覚える方がマシ」
「俺だってお前とそんな風に見られるくらいなら男と勘違いされる方がマシだ!」
「うん分かった、なんかごめん。で、何喧嘩してたの?」
ちょっとしたからかいのつもりだったのだろうが、結構ガチで私達が否定するものだから、少し焦ったのかさっさと本題に移っている。
「空瀬が天乃さん達は告られなくて自分は告られる違いを教えろっていうから、性格の差っていったら怒ったんだよ」
「あーなるほど。空瀬ちゃんここ最近休み時間くるたびに告られてるもんね」
気づいているならマジで少しくらい止める努力をしてほしい。
「これなら陰口言われてた方が百倍マシ。どうにかして告白ラッシュ止めてよ。あんた顔だけは広いでしょ」
「空瀬ちゃんっていつも一言余計だよね、ほんと。そういうところも告白されても誰も止めない理由の一つだよ。絶対靡かないって思われてるんだよ」
「つまり優華達は軽そうに見えるってことね」
「ちげーよ。天乃さん達は心の優しいか弱い女の子って事だ。お前みたいにか弱いとは到底かけ離れた奴を気にかける程俺達は暇じゃないってことだ」
「は?」
あいつらのどこがか弱いんだ。節穴にも程がある。
「とにかく、告白ラッシュ止めたいなら性格直すか彼氏でも作るかしないと無理だよ」
できないことを言われても困る。
「無理」
「別にフリでもいいじゃん」
「……嫌だ」
「我儘だね」
「そもそもフリでも男と付き合うと、別れたって噂が広まった時余計に面倒になる。逆手に取られてガチになられても困るし、相手に好きな人ができたらそれはそれで絶対裏切るだろうし。あんたみたいに」
裏切り者は私の顔をじっと見た後、呆れたように溜息をついた。
「空瀬ちゃんって本当にその顔で良かったね。人によっては性別関係なくそろそろ殴られるよ」
「私の場合その前に殴り倒すから」
「空瀬が言うと冗談にならない。ま、お前の事はお前でなんとかするんだな。俺は協力しねーから」
「元からあんたは選択範囲外だよ。非モテと付き合ってるとか嘘でも噂流れるだけで嫌だわ」
「あーそーかよ! 俺だってお前みたいな性悪女は願い下げだ!」
非モテは語気を強めた言葉を吐いた後、機嫌悪そうに自分の席に戻っていった。




