視線に慣れねば
昼休み、いつものように紅葉の席に行くが、小さな悲鳴を上げられて逃げられた。
「花恋、お弁当食べないの?」
「そんな気分じゃない」
お弁当を机の端に置き、私は机に突っ伏す。
紅葉の態度に割と傷ついてしまっている。月餅に無視されるのと同じくらい辛い。月餅に無視された事ないけど。
いつもならうざったく感じる怜の撫で撫でも気にならないほど胸が痛い。
「くうちん重症だね〜」
「うるさい」
「花恋ちゃんも無視されると傷つくんだね」
「あんたらにされても傷つかない。紅葉だからこうなってる。私何もしてないのに。紅葉には何もしてないのに。友好的に接していたのに。なんで無視されないといけないの」
頬をムニムニしても怒らない私を見て、悠優は信じられないとでも言いたげでありつつも、その手を緩める事はない。
「か、花恋……」
顔を勢いよく上げると、後頭部にちょっとした衝撃が走った。
目の前には額を抑えた怜がいるが、無視して紅葉に向き合う。
別に私が心配せずとも、優華か悠優がどうにかする。
「だ、大丈夫?」
「平気」
「痛い……」
悠優が怜の額が赤くなっているのを確認すると、保健室に連れて行った。
「紅葉……私紅葉には何もしてない。無視される筋合いない」
紅葉は目を常に動かし、落ち着かない様子で上擦った声で言葉を紡いでいく。
「いや、その、花恋が嫌になったんじゃなくて、その、顔が……」
「私の顔に貶される要素は一つもない」
「そういう意味じゃなくて、その、ウチ、面食いだから……花恋の顔、眩しすぎて、その、まともに見れないというか……」
私はその瞬間大きく息を吐いた。
嫌われていない。その事実で十分どころか、そもそもが私の美貌という嬉しい原因。
「うっ……その顔やめて……」
私が思わず頬を緩ませると、紅葉は手で顔を覆った。
「無理無理。ま、紅葉には慣れてもらうしかないね。とりあえず、これからもよろしく。てことでお昼食べよ」
「もうお昼食べたから遠慮するよ。ウチは心を落ち着かせてくる」
「行ってらっしゃ〜い」
私はお弁当を開き、一人遅めの昼食を始める。
「花恋ちゃん幸せそうだね」
「そう思うなら邪魔しないで」
「ニコニコしながら言う言葉じゃないと思うよ」
そう言う優華もニコニコしながら私を見てくる。
「ねえ、花恋ちゃん」
「何?」
「目を覆わない世界はどう?」
「視線が鬱陶しい」
「そっか。でも、もう平気なんだね」
「他人の視線なんてどうでもいいって事に気づいたから。……何笑ってるの?」
「花恋ちゃんらしいなって。ようやく本当の花恋ちゃんと接する事ができた気がして」
「私嘘つかないことに関しては定評があるんだけど」
「そうじゃなくて」
優華は怜の席に座って私と顔を合わせてじっと目を見てきた。
段々と近づいてきているように感じて、思わず片手で優華の顔に触れて近づかないよう牽制した。
「あんま見ないで」
「ごめんね。花恋ちゃんが真っ直ぐ私を見てくれる事が嬉しくて。前までの花恋ちゃんはどこか避けているように感じていたから。やっと見てくれるようになったね」
知らぬ間に警戒していた人の目線の事について言っているのだろうか。だとしたらこの人はどれだけ私の事を見ていたのやら。
「どうしたの花恋ちゃん?」
「別に」
なんだか少し恥ずかしくなる。




