意外とあっさり終わるもの
修学旅行から月日が経ち、絶賛夏休み真っ最中。というかもう半分過ぎている。
今回の夏休みはとにかく三人から誘いが来そうなイベント事は紅葉で埋める事により回避し、それなりに充実した夏休みを満喫した。
そして今日は、冷房の効いた店内でジュースをお供にパフェを堪能しながら人を待っている。
「久しぶり。一年ぶりだね」
相変わらず時間に遅れてきた張本人は涼しい顔して目の前に座った。
「久しぶりだね。まさか花恋から連絡寄越すとは思わなかったよ」
「ちょっと色々と整理しないとと思ってね」
「ふーん。整理って? 私何かした?」
私無関係ですと言わんばかりにとぼけた明るい声を響かせている。
「そうだね。夢空にされた事はたくさんあるよ。語りきれないくらい」
「去年も言ったじゃん。花恋に悪いところがあったって」
「そこなんだよ」
ちょうどパフェも食べ終わり、容器を横にずらして夢空に顔を合わせると、少し顔が引き攣った気がした。
「私考えたんだよ。どうして私はこうなってしまったんだろうって。最初は夢空に拒絶された事がショックだったのかなって考えた。違った。じゃあ、孤立した事? これも違う。そもそも、私は親しい人に嫌われる事にも孤立する事にも耐性はある。正直なんとも思ってない。じゃあ、中二の私は一体何が耐えられず、今もこうして目を隠さなければ外に出られないのか。最近ようやく分かったんだよ」
「そうなんだ。良かったね。それを話しにきたの?」
「そうだよ。まず結論から話すけど、私は私が間違えたって事にショックを受けたんだよ。私はね、非を認めるのが苦痛で仕方ないの。しかもそれがありもしない非なら尚更ね。夢空に拒絶された時、少しだけ私は夢空を信じてしまった事が間違いだったと考えてしまった。その時、他人の見る目全てが私の非を、間違えを証明するもののように見えたの。他人にどう見られようがどうでもいいけど、私が私を拒絶するのだけは耐えられなかった。それに気づくまで本当に長かったよ」
悔しいけれど、修学旅行が無ければこれに気づく事はなかった。
見られるのが嫌ではなく、見るのが嫌という事と、妄想でも褒められれば褒められるほど気分が良くなるという事に気づかなければ、正解には辿り着かなかった。
「あんなに上から目線でいて、非が無かったって本気で言ってるの?」
夢空からは笑顔が消え、少し悔しそうにコップを握りしめている。
「うん。この事に気づくのにはそう時間は掛からなかった。どちらかというと、夢空がどうして私を見捨てたのかの方が分からなかった」
「本気で言ってる? 言ったじゃん、あんたと付き合うのにストレスを感じていたって」
「それ、嘘でしょ」
夢空の手の力は緩み、呆けた顔で私を見る。
「夢空がストレスを感じていたのは私と友達でいる事でしょ」
「そうだよ。ほら、嘘じゃない──」
「嘘だよ。だって夢空がストレス感じていた部分って、私との格差の部分でしょ」
「は? 何言って──」
「友達っていうのは対等な存在。上も下もない。定義とかそういう話じゃなくて、日々過ごしていく内に自然と刷り込まれるもの。もちろん、私も夢空の事を下に見た事はない。でも、夢空は思っていた。自覚していたんでしょ、私という存在がいなければ、夢空は皆から注目される事も、そもそも友達ができる事もなかったって。だから最初は趣味を捨てて私と同じステージに上がろうとした。でも、理解すればするほど無理だって事に気がついた。格差を埋める方法で悩んでいた時に丁度ストーカー事件があった。それを利用して夢空は私を堕とす事にしたんでしょ。夢空の企み通り、私の人気は地に落ちたどころか腫れ物扱いされ、さらに引きこもり、終いには目を隠さないと外に出られなくなった。同じステージまで堕とすどころかさらに下に行ってくれて嬉しかったんでしょ。だから、今もこうして呼び出しに応じたんでしょ」
一通り言ったところで、夢空の反応を見ようと思ったが、中々口を開こうとしない。
おかげで、ファミレスの他客の話題すらバッチリ聞こえるほど静かな席になっている。
「怒ってるわけ?」
ようやく返ってきた言葉に私は首を振る。
「ううん。ただの確認作業だから。否定しないって事は合ってるって事ね。それならそれでいい。ようやく私の中で決着がついたよ。夢空、あんたは私の友達だよ。今までも、そしてこれからも。夢空が否定しても意味ないから。だって、私は私を肯定する為に夢空と友達でい続けるんだから。夢空が私の知らないところで何しようがどうでもいい。他人の事なんてどうでもいい。ただ、夢空と友達でいる事を選んだ私を否定する事は出来ない。だから夢空、これからも友達よろしくね」
一生離さないよ。唯一同じステージに立ったことのある最初で最後の友人なんだから。
「あんた、どこまでクズなの……」
「堕ちた者同士ぴったりだと思うよ。じゃあね。スッキリしたし夢空と話す事もなくなったからもう行く。用があるなら連絡してよ。友達の誼で暇なら相手してあげる」
一円単位でお金を置いていき、軽い足取りで店を出て、そのまま行きつけの美容院に行く。
「前髪はいつも通りで大丈夫?」
「そうですね──」
こんなに清々しい色付いた世界は久しぶり。
思わず目を細めてしまう。




