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花の道しるべ  作者: 輝 静
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ハズレくじ引かされた

 修学旅行の夜は長い。

 別に消灯後のお喋りがあるわけでも、新鮮な環境に置かれて寝付けないとかではない。

 理由はただ一つ、寝相だ。

 ベッドの組み合わせはグーとパーで決めた。

 その結果私の隣は怜となった。

 優華と悠優と隣になるよりは寝る前に話しかけられる確率も減るだろうし幾分かマシかと思っていたが、実際は大外れだった。


 ベッドに侵入され、布団は取られ、さらには蹴られそうになるわで寝られたもんじゃない。

 消灯時間は二十二時。そして怜の寝相により起こされて少し経った今の時間は一時。

 ふざけるんじゃない。こんな夜中に起きた事今まで一度もなかった。この時間まで夜更かしした事もないというのに。

 眠いのに寝られないストレスが時計の針が進む毎に溜まっていく。


 怜を起こして文句言ったところで改善はしないだろう。

 なら、方法は一つ、優華か悠優どちらかとベッドを交換するしかない。


 一分ほど考え、私は悠優を揺すり起こした。

 優華は、じゃあ私と寝る? とか言ってきそうだからやめた。


「ん〜。どしたの〜はるちゃ〜ん」


 悠優は寝ぼけているのか妹ちゃんの名前を呼びながら起き上がった。


「ん〜ん? ……あ〜修学旅行か〜。どしたの〜? トイレ〜?」

「うんそうトイレ。暗いから付き合って」


 面倒くさいから悠優の言葉に乗り、悠優をベッドから退かせる。

 その隙に私は悠優のベッドに潜り込んだ。


「……え? あれ? トイレは?」

「嘘。怜の隣嫌だからこっちで寝る。悠優向こうで寝て」


 悠優は大人しく私の元ベッドに向かった後、戻ってきた。


「くうちん、寝る場所ないんだけど」


 どうやら私がいなくなった隙に怜はベッドを二個占領する事に成功したらしい。


「知らない。自分でどうにかして」

「え〜」


 悠優は文句を言いながらも怜を退かす気力も私からベッドを取り返す気力もないのか、優華を起こした。


「ごめんてんちん──」


 悠優の罪悪感に塗れた声と優華の寝ぼけた応答を聞きながら私は眠りについた。


◇◆◇◆◇


 体内時計というのはちょっとした変化如きで狂わないようで、まだ眠いというのにすっかりと目が覚めてしまった。外は地味に暗く、他の三人も眠っている。

 それもそのはずまだ四時だ。大半の学生は眠っている時間だ。

 まあいい。この時間に起きる可能性ぐらい考えていた。ならば行くしかない。温泉に!


 私は他人と共に水に入るのが嫌いだ。

 あれは忘れもしない小六のプールの授業。

 宝探しゲームで潜っている時に生暖かい感触が顔を覆った。

 目の前には男子の股間があり、顔を水から出した時、男子は気まずそうな顔をしていた。

 それがある種のトラウマとなり、私は他人が浸かった水に入る事が出来なくなってしまった。


 しかし、一番風呂となれば話は別。

 綺麗なお湯であれば他人の不純物が混ざっているはずもない。

 ホテルの入浴時間はばっちり確認した。

 こんな朝早くに特段話題になっているわけでもない大浴場に入りに来る物好きなどいない。

 つまり、私一人で大浴場を占領できるというわけ。


「おお……」


 やはり温泉は旅行の醍醐味の一つ。

 最後に大浴場に入ったのは小六の修学旅行だったかな。実に五年ぶりの大浴場だ。

 しかも一人だから気分が良い。

 色々なお風呂を堪能し、最後に露天風呂で締める。

 風呂上がりにコーヒー牛乳でも飲みたい気分だ。


「…………ない」


 お風呂上がり、スキンケアも髪もばっちり仕上げ、さて帰ろうと忘れ物の最終チェックをしてようやく気づいた。

 サングラスをつけ忘れてきたという事に。

 なぜ忘れたのかについては心当たりがある。

 サングラスは怜の隣のベッドで寝ていた時の後ろの台。

 

 悠優のベッドを乗っ取りにいった時に持っていたのはスマホのみでサングラスは元のベッドの方に置き忘れていた。

 そもそも寝ぼけていたし、ホテルもまだ消灯時間なのか照明も控えめで全く気づかずここまで来てしまった。


「……まあいっか。皆寝てるし」


 朝食の時間は七時。対して今は五時。早い人でもあと一時間後だろうし、一般客だってせっかくの旅行先で無駄に早くには起きやしないだろう。

 忘れたものは仕方ないし、一応警戒しつつ戻ればいい。


 結果、誰に会う事もなく無事に戻ってきたので、私はまた夢の世界に入る事にした。

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