お昼
今日は週に二回の四限の日。そして明日を越えれば学校は休み。
今週に入って碌な事がないけれど、今日は少し頑張れる気がする。
と、思っていた束の間の夢。
いいんだ、あの頃の私は幸せだった。それで良い。
「くうちん、おっはよ〜」
朝からわざわざ席前まで来られて挨拶されるという何という不愉快な始まり。
「…………」
「無視しないで〜」
私は何も言わずにヘッドホンを取り出す。
「自分の世界に入らないで〜」
私の手を掴んで、ヘッドホンを掛けるのを阻止してくるから、少々きつめに言い聞かせる。
「触るな」
「やーっと喋ってくれた〜。おはよ〜」
「……はよ」
「えへへ」
さっさとどっか行ってくれないかな。いつもは来るの時間ギリギリのくせにどうして今日に限って早いのか。
「おはよう花恋ちゃん、悠優ちゃん」
また面倒事が増える。
「おはよ〜てんちん〜」
私は無視して手に持っていたヘッドホンを掛けようとすると、また同じように止められた。
「花恋ちゃん、おはよう」
「……はぁ。はよござます」
天乃さんは満足したのか、手を離して自分の席に座った。
「てんちんはいいな〜。くうちんと席近くて」
「良いでしょ〜」
「私は最悪」
「じゃーあ〜次の席替えはゆーゆと近くになれたらいいね〜」
「地獄から地獄に引っ越すだけじゃん。むしろ安蘭樹さんの方が面倒」
「相変わらず酷いね〜」
だったら関わらないでほしい。
「あ、チャイムなっちゃったー。後でね〜」
「もう来るな」
「来るよー」
安蘭樹さんが席に戻っていき、やれやれと溜息を吐かずにはいられなかった。
「花恋ちゃん」
「何ですか?」
「私にもタメ口で話してほしいな」
「遠慮します」
「どうして?」
「仲良くなる気なんて微塵もないからです」
「私は仲良くなりたいのに」
「私はなりたくない」
なんかこの会話毎回しているような気がする。
私は絶対私と仲良くなりたくない。性格悪いことくらい自覚している。改善する気も一切ない。それが私の身を守る術でもあるから。
なのになぜ、本当にこの人らは私に付きまとうのか。
クソ迷惑という言葉が分からないのかこの人らは。
◇◆◇◆◇
今日もやってきたお昼休み。いつもは席に来られているけど、今日は私から安蘭樹さんの元に行く。
「これ」
「なーに〜? プレゼント〜?」
「違う」
私に中身を聞く前に、さっさと開けて中身を確認した。
「タッパー? あ、お弁当。作ってくれたの〜?」
「一人増えたところで手間はそう変わらない」
私のお弁当をじっと見た後、私の方を向いた。
口元がいつも以上に緩んでいる気がする。
「ありがとう〜。すっごくうれし〜」
「これあげるから私の弁当奪うな」
「そんな事しないよ〜。今日はちゃんとお弁当持ってきてるからねー」
「じゃあ返して」
「えーやだー。くうちんの手作り大好きだから〜」
「花恋ちゃん、悠優ちゃん、行くよ」
「行ってらっしゃい」
勢いよく百八十度体を回転させたにも関わらず、私は後ろ向きでほぼ拉致に近い形で連れ去られていく。
「逃げても無駄だよ〜」
「あ! 待って悠優ちゃん! 花恋ちゃんお弁当持ってない!」
そう声かけても止まらない安蘭樹さんを見て、代わりに天乃さんが持ってきてくれるようだ。
つくづく余計なことしかしない。
「れーちんお待たせ〜。ちゃんとくうちん連れてきたよ〜」
「花恋ここおいで」
何がここおいでだ。とっとと私を解放しろ。
「花恋ちゃん、はい」
「余計な事を」
「皆で食べたらおいしいよ」
むしろ不味くなったよ。経験済み。