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花の道しるべ  作者: 輝 静
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変化する個と変わらない関係

「おはよう」


 最初は簡単な挨拶からだった。しかし、それでも十分だった。何せ私からあいさつする事なんて普通ありえないのだから。


「お、おはよう」


 彼女は困惑しながらも、他に私が声を掛けた候補がいない為か、恐る恐る返事した。

 私はそれに満足し、席に座った。


 それから何日も挨拶をした。

 いつの間にか軽い必要事項の話もした。

 自然と一緒にいるようになった。

 軽口を叩くようになった。

 半年が過ぎる頃には友達と呼べるようになっていた。


「夢空、あんた縮毛かけな」

「え、でも縮毛って高いじゃん」

「オタ活するお金あるなら二万くらい出せるでしょ」

「私の生きる理由をそう簡単に奪おうとしないで」

「じゃあ親に出してもらいなよ。清潔感って大事だよ。私がいる間はいいでしょうけど、いなくなったら本当にあんたに近づこうと思う物好きはいないよ。それと同じで、服も綺麗なのにしなよ。お下がりか何か知らないけど、そんなヨレヨレの服、印象最悪だよ。夢空の家、貧乏なわけじゃないでしょ」

「そうだけど……」

「現状くらい自分でも分かってるんでしょ? 私レベルは誰であろうと一生到達できないけど、清潔感があるだけで人の見る目は良い方に変わるよ。てか、自分の推しにそんな姿本気で見せられると思ってるわけ? 推しだって、何の手入れもされていないダサい奴より、手入れの行き届いた清潔感のある人に推されたいでしょ」


 あーだこーだと言っていると、ついに夢空が折れた。


「もう、分かったよ! 今日お願いするよ!」

「お風呂に入った後のスキンケアも忘れずに。やる事リスト化して送ってあげるよ」

「良いですね〜生まれ持っての美少女は」

「完璧が抜けてる。それに私だってスキンケアくらいしてるし。常識でしょ。むしろ何で今までやってなかったの? そんな格好でよく普通に生活出来てたよね」

「一言も二言も多いよ!」

「言われたくなければ気をつければいい。はい、送っといた。事細かに書いといたから、ちゃんと毎日欠かさずやりなよ」


 夢空は明らかに面倒くさそうな顔をした。

 私は最低限としてそれをやっているんだから、あんたは私以上に心掛けてやらなければいけない。そう思ったけど言うのはやめといた。

 ただでさえ不機嫌なのに、これ以上突っ込んだら逆ギレ起こしそうで。

 これ以上は私も本気で相手したくないから、何も言わないようにしておく。


「もし親に言っても何もしてくれないなら、私が直談判してあげる」

「絶対断る。何言われるか分かったもんじゃない」

「じゃあ一人で頑張れ」


 それから一週間、彼女は縮毛した。

 さらに時が経つと、スキンケアの効果も出てきた。

 服も買い替えて綺麗になった。


 実は可愛かったとか、美人になったとか、そんな漫画みたいなことはない。

 ただ、確実に良くはなった。清潔感があるだけで、好印象を抱けるようになる。

 誰もが煙たがっていた存在から、人の輪に入れる資格を持った人間になった。

 それを彼女も感じていたのか、笑顔を見せる事が多くなった。

 前まで自信なさげで、悲観的になっていた彼女が、堂々とするようになった。


 ボサボサなオタク女子はどこへやら、今やスキンケア用品や化粧品を買うために今まで買っていたグッズも買わなくなり、漫画も基本は無料で読み、買う時は中古か電子書籍のセールになっていた。

 何より、イベントに行かなくなっていた。

 タダで立ち寄れるイベント以外は行こうとせず、チケットが外れたと思えばいいと、前までならありえない言葉をあっけらかんと言い放った。


 それでも別に良かった。他人の趣味の変化なんて私にはどうでも良いことだから。

 でも、この変化は私にとって着実に良くない方向へと向かっていた。


 自分に無頓着で推しに一途だった彼女は、いつの日か自分が一番になっていた。


 中二からは、あえて自分よりイケてないと思うグループに積極的に関わるようになっていった。

 陽キャ(と思い込んでいる)、私という最高ステータスの友人、(人並みには)おしゃれ。

 これらのステータスだけで、彼女はお嬢様になった気分でいたのだろう。

 何とも都合の良い夢だろうか。


 彼女は知らない。見えていない。

 彼女が見ている夢にかかっているフィルターが。


 この完璧美少女の私だって嫌われる。

 なら、彼女がそれ以上に疎まれるのは当然のことだろう。

 私という人間と関われる唯一の架け橋であるがゆえに彼女は何も言われないが、彼女を見る視線が、今の彼女を否定している。

 見られるようになったがゆえの視線だ。


 でもそんなこと、私にはどうでも良かった。

 彼女がどんな目で見られようと、私のたった一人の友人に変わりはない。

 私に対する彼女の目が、態度が変わったとしても、その関係性は変わらない。

 だからずっと側にいた。友達である彼女を信頼しているから。

 でも、壊れてしまった。

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