納得のいかない妥協
早いもので一ヶ月。今日は修学旅行の班決めが行われる。
「以前も言ったようにこのクラスの人達は国内旅行です。中には海外を志望していて残念に思っている人もいるかもしれませんが、落ち込まずに楽しい思い出だけの最高の修学旅行にしましょう! では、まずは班決めですね」
自由行動時間外の行動班は男女三人ずつの混合班、部屋班は基本四人、各一班だけ五人となる。
ま、行動班といっても行き帰りの乗り物に固まって乗るだけだけど。
「どうする紅葉?」
「どうするって、何が?」
「あと一人と二人」
「花恋は御三方とご一緒するんじゃないの?」
「ご冗談を」
「多分向こうは本気だと思うよ」
肩に手を置かれ、思わず頭を抱えた。
「くうちんはゆーゆと一緒ね〜」
何そのムカつく笑顔。
「花恋、席隣に座ろ」
「ま、待って! 行動班は三人だから、ここはじゃんけんで」
「……私花恋以外友達いない」
友達じゃない。他人。
「それは皆一緒だよ怜ちゃん」
「ゆーゆじゃんけん自信なーい」
「ちょっと、私の意見ガン無視しないで」
「花恋ちゃんの意見は聞かなくても分かるよ。聞き入れないから大丈夫」
好きな人に向ける言葉とは思えないよほんと。
「最初は──」
「待って! 仮に一緒に行動するとして、そもそも余った一人はどこに入るの?」
三人は構えたまま固まった。
「どこか空いている班に入れてもらうとか?」
「それしかないよね〜」
「意外と何とかなる」
こいつらの言葉にいち早く反応したのは紅葉だった。
「か、花恋、そ、阻止して。余った班に入るということは、余り者になるウチも同じ班になる可能性がある。行動班でいる時間は少ないとはいえ、ウチ、耐えられない」
恐らく仲良し四人グループの誰かと紅葉と三人の誰かという、無言のグループができる可能性は大いにある。
怜以外外面はいいとはいえ、こいつらが積極的に他の人に話しかけるとは考えられない。
グループメンバーも緊張かつ然程話した事ない仲というのもあって会話も弾まないだろう。
それを阻止する案は一つしかない。
「じゃあもう三人で組めばいいじゃん」
三人は顔を見合わせた後私の方を見た。
「別に三人ともそれなりに会話できるでしょ。じゃあもうそれでいいじゃん。そもそも行動班でいる時間少ないし。観光は基本各自自由行動なんだからそれでいいでしょ。部屋班も一人くらい一緒になるって人見つかるでしょ」
「……そうだね、部屋班はともかく行動班は私達で組もうか」
聞き耳を立てていた男子は分かりやすく歓喜していた。それと同時に敵を見る目に変貌している。
どこが三人と同じ班になるか、男子にとってはここ一番の大勝負だろう。
「くうちんとは自由行動でいられるしね〜」
私は一人行動か紅葉との二人行動だけど、面倒くさくなるから言わないでおこう。
「花恋はどうするの?」
「私は紅葉と余り者で組むから問題ない。あと、部屋班も私は紅葉と一緒」
「花恋ちゃん、ちょっと」
優華と悠優に掴まれ、隅に追いやられ、コソコソと周りに聞こえない声で話しかけてくる。
「花恋ちゃん、秋野さんに顔バレしてもいいの?」
「…………」
「ずっとサングラスつけられないでしょ〜? ゆーゆ達なら知ってるから〜外してても問題ないでしょ〜」
「部屋は絶対一緒がいい」
「……はぁ、分かった、分かったよ。でも、一つ問題がある」
「何?」
「私の貞操の危機」
「杞憂だよ〜」
「無断で唇奪った奴が何言ってるの」
「そうなの悠優ちゃん?」
心なしか優華の声がワントーン下がった気がする。
「あれは勢いというか、とにかく杞憂は杞憂だから〜」
「……唇って奪えるの?」
「あんたはもうちょっと常識と学身につけなさい。ま、私に手出したら許さないという事にしといてあげるよ。じゃあはい、終わり終わり」
手をパンパンと鳴らし、無理矢理話を終わらせて私は紅葉の元に戻る。
「それで、私達の行動班はどうする? 紅葉は部屋班もだけど」
「うう、どうしよう」
「空瀬ちゃんに秋野ちゃん、どしたのー?」
暇になったのか、裏切り者がいきなり声をかけてきた。
「行動班があと一人必要なのと、紅葉は部屋班を探さないといけない」
「なるほどね〜。行動班ならわたしが入るよ。部屋班は空瀬ちゃんのところを五人班にしたら?」
「か、花恋がいてもあの御三方と同じ部屋でね、寝泊まりは心臓がその、持たない、といいますか……」
「あはは、たしかに! ちょっと待ってて」
裏切り者はいつものグループに戻っていき、少し話すとすぐ戻ってきた。
「秋野ちゃん部屋班わたしと同じでいい? 班の皆に許可はもらってきたから大丈夫だよ」
「え、いや、その……」
「ごめんね、気まずいと思うけど、天乃ちゃん達と同じ部屋よりかは緊張しなくていいと思うから。大丈夫、秋野ちゃんが思っているほど悪い時間にはならないよ。何より、皆空瀬ちゃんとは比べ物にならないほど性格良いから、日頃から空瀬ちゃんといる秋野ちゃんなら問題ないよ」
「あんたも十分性格悪いよ裏切り者」
「空瀬ちゃんには負けるよ。てことで、あとは男子だけだね。どうする? 多分今誘ってもどこも乗らないと思うけど」
男子は闘志を燃やし、来たるべき運勝負に備えている。
無理だろうなあれは。話しかけたら噛みつかれそう。
「よっ。何だ? お前らで組んだのか?」
例外で呑気な奴もいるもんだ。余裕なのか、諦めているのか。後者だろうな。
「そうだよ〜。他の人に空瀬ちゃんは荷が重すぎると思って」
「悪口言われたって怜に告げ口するよ」
「空瀬ちゃんが変な事吹き込んでるって天乃ちゃんと安蘭樹ちゃんに言うよ」
「ふ、二人ともその辺りで……。関係ない人巻き込んじゃダメ……です」
「確かに、天乃さん達との同班じゃんけん負けただけでなく空瀬と同班とかあまりにも可哀想だな。しゃーない、俺らが入るよ。どうせ天乃さん達と同班になれないだろうし。喋った事ない女子と同じ班になるよりかはマシだろうしな」
「ほんと⁉︎ 助かる〜」
何で私が妥協材料になるのやら。どう考えてもおかしいでしょ。
腑に落ちない私をほったらかしに、裏切り者は班員の名前を書いて先生に提出した。
部屋班は優華が勝手に出していたらしい。




