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花の道しるべ  作者: 輝 静
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卵焼き

 天乃さんは箸を止めて私のお弁当をジロジロと見てくる。


「お弁当いつも花恋ちゃんが作ってるの?」

「他人の作った料理嫌いなので」

「それじゃあ料理できるってこと?」

「できる方だとは思います」

「凄いね! もしかしてお菓子とかも作れるの⁉︎」

「作れますけど」

「じゃあたまに持ってきていたお菓子って花恋ちゃんが作ってきたの?」

「はい」


 仲良くないくせにそこまで見てたの? 怖。


「えー凄い! 私出来ないから尊敬しちゃうな。花恋ちゃんはどうして料理しようと思ったの」

「あー、中学の時暇で……」


 嘘はついてない。嘘は。


「くうちん、お肉もちょうだ〜い」

「悠優ちゃん、花恋ちゃんが食べる分無くなっちゃうよ」

「だって〜美味しいんだも〜ん。毎日食べたいくら〜い」

「毎日奪われてたまるもんか」

「奪うなんて言ってないよ〜」


 ほぼ同意がだわ。


「なんかそこまで言われると私も気になるな〜」

「あげませんけど」

「大丈夫だよ。気になっただけだから」


 それは遠回しに私もほしいと言っているようなものだけど、ツッコむとなんやかんやであげる流れになりそうだから無視しとこ。


「ほんとに美味しいよ〜。まだ一個あるからあげる〜」


 それ私から奪った一個なんだけど。


「え、あ、じゃあ貰おうかな。ありがとう」


 少し躊躇いは見せたものの、私に返還することも言わずにちゃっかり自分の胃袋に納めている。


「わ、本当に美味しい。すごい」


 落ち着いた声のトーンで発せられる言葉が、より本気感を醸し出していた。


「でしょ〜。ゆーゆももう一つ……あ、くうちんの残り少ない」


 一体誰のせいだと思っている。私よりも安蘭樹さんの方がバクバク食べてたんだから。


「最後に一個だけいーい?」


 あんだけ食べてまだ食べようとするのかこいつは⁉︎


「ダメだよ悠優ちゃん。あとは花恋ちゃんの分だよ」


 そう言って、安蘭樹さんの箸を警戒している隙を掻い潜って、天乃さんは私の卵焼きを手に入れた。


「花恋ちゃん、はい。あーん」


 思わず咽せそうになった。周りからのチクチクした目がさらに強く私を攻撃し始め、私の行動一挙一動に文句をつける勢いだ。


 そもそも、私のお弁当の具材を天乃さんに食べさせてもらわなければならないのか。


「花恋ちゃん」


 天乃さんが腰を上げて私の目の前まで差し出したので、口を開く以外の選択肢がなかった。


 だって周りから、羨ましい! なぜお前なんかが! って心の声と同じくらい、天乃さんにそこまでさせて何もしないとかないだろう! という声が目に乗せて私をチクチク攻撃してくるから。


「どう?」

「美味しいです」


 そもそも私の手作りだし。


「ね、本当に美味しい。何か返そうと思ったんだけど、花恋ちゃん人の作ったものダメだって言ってたから、雰囲気だけでもって思って」


 余計なお世話としか言いようがない。


「悠優もくうちんにあげたーい。くうちん、口開けて」

「私も花恋にあげたい」


 ああ神よ。なぜこうも私の平穏な生活を壊そうとするのでしょうか。

 一体なぜ、こうも試練を与えるのでしょうか。


「……席ない」


 元からあなたの席はありません。


「教壇に椅子あるから持っておいで」


 天乃さんはまた余計な事を!

 どうしてこうなるんだ! こんなダサ女になぜこうも花が集まってくるんだ! 今の私はドクダミであって、君達みたいな花屋の花じゃない!

 それとも何? 私はどう頑張っても魅力を隠せないというの⁉︎


「悠優お弁当は?」

「今日は〜忙しくてコンビニだったんだけど〜、買うの忘れちゃって〜。でもくうちんとてんちんにもらったから大丈夫〜」

「いいな、私も花恋のお弁当食べたい」


 いやもうあげないよ⁉︎ しかもあんた持ってるじゃん!


「花恋ちゃんのお弁当美味しいよ」


 援護射撃しないでよ天乃さん! あなた一番まともそうな性格と評判しといて一番悪魔だよ!


「花恋」

「あげない」

「私のあげる」

「私他人の作った料理食べられない」

「私は他人じゃないよ」

「他人だよ⁉︎」


 一体どこに他人じゃない要素ある⁉︎


「花恋」

「……分かった、あげるから今すぐ帰って。それが守れるならあげる」

「じゃあいらない」


 まあそうだろうとは思ったよ。でもお弁当死守できただけ良いとしよう


「れーちん可哀想だからゆーゆのあげる〜」


 私のだよ!


「ありがとう。あ、美味しい」

「でしょー」


 なんであんたが誇らしげなんだと言いたかった。


 結局、氷冬さんはチャイムがなるまで居座り、安蘭樹さんは先生が来るまでずっといた。


 家に帰って卵焼きを作ると、ほとんどお姉とお母さんに食べられた。

 今日の私は卵に嫌われていたようで、少し切なくなった。

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