盲目オタク
紅葉はまだ優華の写真を見てニヤニヤしている。
お弁当のおかずにするには人選ミスだと思うけど。
「見飽きないの?」
「美人は三日で飽きるなんて嘘だよ嘘。いつまでも見ていられる。この写真家宝にする」
「そんな大袈裟な」
「常に御三方に囲まれている花恋には分からないんだよ。この写真にどれほどの価値があるかだなんて。ウチにとって三人は推し、いや、生き甲斐同然。ウチにとっては高嶺の花という言葉すら安っぽく聞こえてしまうほど、三人は尊く高尚な存在なんだよ」
三人ともそれぞれファンを抱えているとはいえ、ここまで熱狂的なのは早々いないだろう。
それともこれが普通なのだろうか?
橋渡しになれと遠回しに近づかれた事はあるけど、紅葉タイプとは関わった事がないから基準が分からない。
「紅葉は私が妬ましくないの?」
「妬ましいわけないじゃん! たしかに羨ましいと思う事はあるし、美化前提の妄想もするよ。でも、ウチは花恋の立場になりたいなんて思わない。あくまで外から眺めてこそなの! 自分から関わりにいかない! 神聖な存在の中に自分が入って汚したくない! あと何より、リアルは尊すぎて死ぬ!」
わあすごい、オタクだ。
「私がいる事についてはどうなの?」
「花恋も一部なんだから邪険に思うわけないじゃん! むしろ感謝しているよ。花恋のおかげでウチは御三方を間近で見られるし、絡みも堪能できる。しかも御三方とも花恋だけの対応で普段とは違う一面を見せてくれるから、ウチにとって花恋は神のような存在だよ」
理由はともかく神と呼ばれる分には悪い気はしない。
「ふーん。ちなみに、三人に好きな人できたらどうするの?」
「泣く。辛い。死ぬ」
急に語彙力無くなってるし、なんとなくショック受けてるのが分かる。
「あ、でも」
「でも?」
「三人の百合なら全然あり」
残念ながら三人の百合ではないんだな。百合ではあるけど。
「で、この話を後ろで聞いているあんたはどう考えてるの?」
今日出された宿題をやっていた優華が顔を上げる。
そして紅葉はすっかり忘れていたのか、それとも後ろに天使がいると考えると心臓が破裂するから考えないようにしていたのか、どっちにしろ、焦って顔を机に突っ伏せた。
「花恋ちゃんが楽しそうで微笑ましいなって」
「ファンの声を直接聞いた感想じゃないでしょそれ」
「もちろん嬉しいよ。でも、あまり聞き耳立てるのも悪いと思っていたから意識しないようにしていたの」
「嘘つけ。どうせ全部聞いてたんでしょ。優華はそういう小賢しいの得意だし」
「花恋ちゃんは私にどういう印象を持ってるの?」
「天使の皮を被った悪魔。紅葉も騙されてるんだよ。悪魔が高尚な存在なわけない」
「やめて花恋、もうやめて。これ以上の精神ダメージは耐えられない。ファンの気持ち悪い本音というのは隠してこそなの。推しに聞かれて良い言葉じゃないの。推しに伝える言葉はね、引かれないようにありふれた綺麗な言葉じゃなきゃいけないの」
紅葉は私の手を両手でがっちりと掴み、プルプルしながら懇願するように私を見上げている。
「そんなに卑下しなくても大丈夫だよ。私は嬉しかったから」
「推しにフォローされて嬉しさと恥ずかしさで余計死にそう。そしてやっぱり天使」
「悪魔だよ」
「ウチにとっては二人といない天使なの!」
限界化しているオタクって側から見るとすっごい面白い。
これ、二人も加わったらどうなるのだろう。




