恋のせい
優華の口を押さえたまま、荷物置きになっている隣の部屋に移る。
「何あんな大勢の前で公開告白しようとしてるの!」
「ごめんね、ちょっとパニックになっちゃって」
「そもそも悠優にバレてるとかどうでもいいじゃん!」
「どうでもよくないよ! その辺りちゃんとしておかないと。気遣われても困るし、そもそも私が今後悠優ちゃんと過ごす時変に気にしちゃうのも嫌だし。ただでさえ難しい感情を抱えているのに、そこに悠優ちゃんの事も加わると整理がつかなくて。何より、一人で抱え続けるには大きすぎて」
何を言っているのか。人って恋した瞬間こんなに馬鹿になるのだろうか? それとも優華特有なのだろうか?
「何? 悠優が知っている事が問題なの?」
「ううん。気遣われるのが嫌で。知られているのはむしろありがたいといいますか。」
「悠優が気遣うわけないじゃん。敵なのに」
「え……?」
優華は目を点にして私を見つめている。
脳内整理している人を間近で見る機会は中々ない気がする。
「え、あれ? もしかして花恋ちゃんの事が好きなもう一人って悠優ちゃん?」
「さあね。本人に聞いてみたら? とにかく、聞くのはいいけど聞き方くらい気をつけてよ。私を巻き込まないで。そこだけよろしく」
悠優の好きな人を隠す理由もないし、今の優華アホだから何かしらやらかしそうだし、ここは同志である悠優にどうにかフォローを任せよう。
痴女とアホか。とんでもないのに好かれてしまったよ本当に。
「くうちん、てんちん大丈夫〜?」
「頭の方はもう駄目。あとはよろしく」
「え、何? どういうこと?」
私は悠優の問いかけを無視して飲み物を注ぐ。
料理も揃い、あとは優華が戻って乾杯するのみ。
「あ、戻ってきた〜。はい、てんちん。とりあえず持って〜」
「あ、うん」
優華がコップを持つと全員声を揃えて乾杯した。
各々飲んで食べ始める中、優華だけは真剣な表情をしていた。
「ねえ、悠優ちゃん」
「どうしたの〜?」
「私と同じ気持ちだったりする?」
「気持ち?」
優華は私の方を見て、一呼吸置いてから口を開く。
「好きって気持ち」
声量は抑えられ、周りも騒がしい事からおそらく私達にしか聞こえていないだろうが、仮に他の奴らに聞かれていたら確実に勘違いされていただろう。
まあしてくれていいんだけど。
「てんちん、ちょっと来て〜」
悠優はニコニコしたまま立ち上がる。私の腕を握りながら。
「くうちんもね〜」
両手にチキンとコーラがあるというのに、構わず悠優は私を隣の部屋まで引きずっていく。
部屋のドアを閉めるや否や、悠優は溜息を吐いた。
「てんちん、あまり人がいる前で厄介になりそうな事聞かないでね〜」
「ごめんね。焦っちゃってつい」
「次からは気をつけてね〜。それで、どうしてわざわざ聞いてきたの〜」
「上手く言語化できないんだけど、私、人を好きになったのが初めてで、どうしたらいいか分からないから、相談できる人がいたら嬉しいなって思ってて。気持ちを知られているなら遠慮しなくてもいいし」
「そっか〜。分かるよ〜。共有したくてうずうずしちゃうもんね〜」
どう考えてもここに私がいる理由が見当たらないから帰してほしい。
別にこれ見ながらチキン食べても味変わらないし。
「ところで、いつゆーゆがくうちんのこと好きって分かったのー?」
「それはさっき花恋ちゃんが教えてくれて」
「くうちん、あんまり人の気持ちをペラペラと話すもんじゃないよ〜」
食べてるから急に振らないでほしい。
「どうせバレるんだから別にいいじゃん。それよりも恋してお花畑状態の優華の牽制役の方が必須。いつぽろっと零すか分かったもんじゃない。それに私まで巻き込まれちゃたまったもんじゃない。てことでよろしく悠優」
悠優は呆れた笑みを私に向ける。向ける相手を間違えていると言ってやりたい。
「自制くらいできるから大丈夫だよ」
そしてこの人はこの人でどうしてそんな言葉と表情になるのやら。
未遂持ちがヘラヘラするな。
「今までの行動を振り返ってから言ってくれる?」
「……も、もう大丈夫だよ。気をつける」
「自爆するなら一人でね。私を巻き込んだら許さないから。悠優も」
それだけ伝えて部屋を出る。
◇◆◇◆◇
メインに戻るや否や、非モテが話しかけてくる。
「二人と何話してたんだ?」
「別に。あの二人が私に話しかけるなんて珍しいことでもないでしょ」
「いや、今回は違うというか、天乃さん、少し変だったし。空瀬、言いにくいってことは分かってる。でも、こればっかりははっきりさせてほしい」
適正温度だというのに変な汗が出てくる。
まさか勘づかれた? もっと早く優華を止めなければならなかったかも。
どうしよう、優華が私を好きとかバレたら絶対厄介な事になる。
嫌だ、これ以上知らん奴らに絡まれたくない!
「天乃さんって、安蘭樹さんが好きなのか?」
「え?」
あれ? そっち? そっちね! あー良かった、私じゃなかった。
「あー、ちなみにもしそうだとしたらあんたらとしてはどうなの?」
「まあ、そうだな、彼氏ができるくらいなら、二人でくっついてくれた方が俺としてはいいというか。そもそも俺らにチャンスなんて元からねーし」
「ふーん」
ぽっと出の奴に奪われるくらいなら、推しと推しでくっついて目の保養になってくれた方が嬉しいって事ね。
「それで、実際のところどうなんだ⁉︎」
ここでそういう事にしといた方が今後優華が失言しても私が巻き込まれる可能性は低くなる。
それに、この噂が流れたところで困るのは二人であって私ではない。
ついでに呆れて私の事嫌ってくれれば万々歳。
私に損がないどころか最終的に得になる可能性大の素晴らしい結果を齎す可能性を秘めている。
「あーうん、そうそう、優華は悠優が好き──」
両肩に強い感触と同時に背後からの嫌な気配が私を覆っていく。
「花恋ちゃん、何出鱈目な事言ってるの?」
「流石にそろそろ怒るよくうちん」
目が笑っていないどころか黒い感情を孕んでいる笑顔ってこういうのなんだろうなって、一周回って冷静に考えてしまう。
「ごめんね持無君。花恋ちゃんの言ったこと全部嘘だから気にしないで」
「あ、大丈夫です。空瀬の妙に弾んだ言い方で嘘だって分かったので」
「くうちんはゆーゆともう一回お話しようね〜」
悠優が私を引っ張るので、全ての力を使い、私はこの場に留まる。
「非モテ助けろ。お前のせいで私は最後の最後で怒られる」
「お前は一回痛い目見た方がいい」
「はあ、嫌な事だけでなく人間関係も忘れたい。まあ、今年の嫌なことは全部人間関係なんだけど」
「空瀬ちゃんまた言ってる。別にもう陰口とか言われてないんだし、素直に交流を楽しんだ方がいいと思うよ」
ここの輪に入ってくるならとりあえず優華と悠優を離してほしい。
何平然と慣れたように話しかけてくるのやら。
「陰口くらい言われ慣れてるからどうでもいい。冬休み明けたら絶対こいつらと二年で同じクラスにならないよう虐められてるって先生に訴えてやる」
「もう空瀬ちゃんの性格バレてるから意味ないと思うよ」
「それでも絶対言う。二年で離れられなければ三年でも一緒とか耐えられない」
「はいはい、そうだね〜。てんちん、くうちん引っ張るの手伝ってー」
二人に引きずられる私をクラスの奴らは暖かい目で見守っている。
一人くらい助けろ! 薄情者!
一年生編はこれで終わりです。
本当はお正月まで書こうと思っていましたが、また長くなりそうなのでやめました。
クズ主人公とタグを付けている以上、花恋をクズにしなくてはと意識した結果、なぜモテているのか分からなくなります。




