さりげなく自分のペースに持っていかれた気がする
春の優華に今の優華を見せてあげたい。
それほどこの一年で優華は私に遠慮が無くなった。
嫌な変化だよ。
「着いたよ」
中央の大きなクリスマスツリーを軸に四方八方に広がる電飾。
普段はないショッピングモールの広場にまで出ている店。
雪山にあるログハウスを意識したような作りに真っ赤なサンタさんとトナカイの人形が印象的。
聞かずとも見れば分かる。クリスマスマーケットだ。
カップル達が和気藹々と店の品を物色している。
「わざわざクリスマスに一人で来るつもりだったなんて、可哀想な人」
「クリスマスに家にいるとお母さんに心配されるから」
「ケーキ屋の単発バイトでもすればいいじゃん」
「お父さんがバイト反対なんだよね。ちょっと過保護で……」
過保護な父なら娘がクリスマスに出かける方が心配だと思うけど。
「お父さんクリスマスに出かける事に関しては何も言わないんだ」
「ううん。むしろ騒がしいよ。私に彼氏がいる可能性があると別れさせてやるってすごい気迫になるの」
優華は珍しく溜息を吐いた。
我が家の父のように駄目な方の親バカなのだろう。
「ふーん。いたことあるんだ」
「ないよ⁉︎」
「可能性が出る時点近しい存在がいたってことじゃん」
「高校でも共学に行くって決めただけで私に手を出す男がいる所なんて許せるかってなる人だよ。クリスマスに出かけるってだけで彼氏いる判定してもおかしくないでしょ?」
「じゃあなんでクリスマス出かけるの?」
「お母さんがクリスマスに遊ぶ人がいないの? って心配してくるから」
娘に対してこうも真反対の意見をぶつけてくる夫婦もいるもんだ。
そして、優華がこうして出かけている時点で夫婦の力関係も手に取るように分かる。
「そっか。じゃあ私はこの辺で。一人で楽しみたまえ」
「ちょ、ちょっと待って花恋ちゃん! 買い物付き合って!」
「ここまで来るのに付き合ったんだから十分すぎるでしょ」
「全然十分じゃないよ! 花恋ちゃんが欲しい物買ってあげるから付き合って!」
「……本当に?」
「もしかしてすごく高いの言おうとしていない?」
「流石の私も常識はある。型落ちのヘッドホンでいいよ。五万くらいで買える」
「常識的に考えて無理だよ。せめて一万円以内で考えて」
一万じゃ大したものは期待できない。スキンケアとかヘアケア用品くらいか。
あとは月餅に普段より良いものを与えるくらい。
別に特に欲しい物ではないし、それと私の貴重なクリスマスを天秤に掛けられるかというとぶっちゃけノーだ。
「残念ですがこの話はなかったということで」
「どうしたら付き合ってくれる?」
「ヘッドホン」
「現実的な範囲だと?」
絶対解放する気ないな。いや、最初から大人しく解放してくれるとは考えてないけど。
「……忘年会風邪引いたことにするから口裏合わせて」
「それ以外で」
「そもそもなんで私を付き合わせるの?」
「それは、その──クリスマスくらい好きな人と過ごしたいもん」
「は?」
「あ、えっと、ほら、花恋ちゃんと一緒だとナンパの心配がないから!」
違うんだよ。聞こえないという意味のは? じゃないんだよ。別に私は鈍感系でも難聴系でもないからはっきりと聞こえていたよ。
そもそも文化祭後辺りからなんとなく察していたよ。
今までどれだけの恋愛感情を向けられたことか。それくらい容易に気付ける。
だからその感情についてのは? でもない。
私がは? って言ったのは、私が好きなら私の意見を尊重しろって意味なんだよ。
だから大人しく私を解放してほしい。
……でも聞かれてないと思ってそうだし、仕返しに少しおちょくるのもアリかもしれない。
「優華のナンパ避けにされるぐらいなら静凪君とクリスマスデートしたかった」
「えっ、いや、花恋ちゃんデートはしないって……?」
「まあ、静凪君になら私の初めてあげてもいいかなって思えるし。昔とはいえ結婚する約束した仲だし」
まあ嘘だけど。いくら幼少期であっても私は私の価値を見誤ったりなどしない。
「そうなんだ……」
優華からは笑顔が消え、引き攣った困惑の表情を浮かべている。
優華は嘘だと考えられる事も怜とは別の意味で真面目に受け取るからしっかりと心に傷を負ったよう。
やっぱりまだまだ甘い世界の癖が抜けていない。
そこに関しては悠優を見習うべきだとは思う。
「ま、嘘だけど」
「え? 嘘?」
「私が誰かと結婚の約束するわけないじゃん。あといくら静凪君でも私のデートはあげられない。そもそもあげるならとっくの昔にあげてる」
わーなんて分かりやすい。そんなあからさまにほっとしなくてもいいでしょう。
しかも何その満面の笑み。
そんな笑顔したって優華にチャンスが回ってきたわけじゃないのに。
「そろそろ回ろうか。時間は有限だからね。花恋ちゃんも見て回っている内に欲しいもの見つかるかもしれないし」
優華は上機嫌でクリスマスマーケットを回り始めた。
もちろん私の片手は拘束されている。
「見てみて花恋ちゃん! 可愛いスノードーム!」
「へー」
優華を見て思うのだけれど、私と買い物して何が楽しいのだろう?
お姉は私と買い物するメリットは荷物持ち要員が増えるだけで、あとは損しかないというのだから、おそらく普通は私と買い物しても楽しくないのだろう。
つまり優華は異常者ということになる。
変な人に好かれてしまったものだ。なんて可哀想な私。
「花恋ちゃんは何か欲しいの見つかった?」
「ない。予算が安すぎる」
「十分頑張っている方だと思うよ」
「私の欲しい物を買えない時点で頑張ってない」
「お嬢様だね〜」
優華はそれだけいうとまた自分の買い物を始めた。




