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花の道しるべ  作者: 輝 静
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恋愛経験ゼロ

 快くパーカーを貸してもらったので、フードを深く被って食堂に向かう。


「なあくうさん、あんまり嗅がないでくださいよ」

「ちゃんと洗ってるのか疑わしいから」

「昨日洗ったばかりすよ! 姉ちゃんくうさんが失礼な事言ってくる!」


 すぐ姉にちくるとか情けないな。


「くうちんに関しては諦めるしかないね〜。お姉ちゃんじゃ無理だよ〜」

「くうさん普段から姉ちゃんに何してるんですか」


 弟君は呆れた表情を向けてきた。相変わらず失礼なガキだ。


「私が悠優に自ら構うわけないじゃん。私はあくまでこいつらの被害者だよ被害者」

「私花恋に何もしてない」


 思わず呆気に取られた。散々私に構うな、近づくな、仲良くしないと言い続けてきたというのに、今も尚こうして当然と言わんばかりに私の隣にいて、しかも無理やり手を掴んでいるというのに何もしていないだと?


「あんたは十分加害者だよ」


 私のこの言葉に反応したのは怜ではなく弟君だった。


「人生に一度お目にかかれるかどうかレベルの美人三人に構われることが不満とか、贅沢な悩み」

「こいつらのせいで私の静かな人生潰されたんだから当然でしょ。てかあんたこそどうなの?」

「どうって?」

「人生に一度お目にかかれるかどうかの美人と行動しているこの状況」

「下手な事言ったら俺姉ちゃんに殺されます」


 それが一番下手な言葉だと思う。


「しないよ〜。酷いね〜そうちゃん」

「だって。ほら、お姉さん直々に許可が下りたんだから聞かせてもらおうか」


 弟君はあからさまに嫌そうな顔をした。

 私に変な事を言ってきた仕返しだ。


「まあ、綺麗だなとかは思うけど、それだけで別に他の奴らみたいに憧れたりはしませんけど。俺だってかなりのイケメンだし、そもそも姉ちゃんで慣れてるし、何より姉ちゃんの知り合いとか一番無しです」

「ふーん」


 つまんない回答。もっと地雷踏み抜いてほしかった。


「あんたの友達が悠優好きなのはどうなの? ほら、あの、あいつ、むさ苦しいやつ」

「高杉元気です。ちゃんと名乗っていたじゃないですか」

「他人の名前とかどうでもいい。で、どうなの?」

「他人の恋愛観とか正直どうでもいいです。そもそもあいつ最初から失恋してますし」

「ま、そうだろうね」


 今に至っては可能性が完全にゼロだし。

 哀れな男だ。


「恋愛観の話といえば、くうさんって女もいけるんですか?」


 前を歩いていた優華と悠優が衝突して二人とも転けそうになっていた。

 何故君らが動揺しているのやら。

 てかこいつ悠優の気持ち絶対知ってるな。わざと悠優にも聞こえるタイミングで質問したとしか思えない。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ」

「気にせず続けて〜」


 何が気にせず続けてだ。聞き耳立ててるの丸分かりだわ。

 対して怜は口出してこないから興味ないのかよく分からない顔してる。

 いや、そもそも怜は理解できていないか。なるほど、合点がいく。


「で、どうなんです?」


 どうやらこれに関しては確実に答えるまでしつこそうだな。

 これ避けてもどうせ前の二人が逃さないだろうし。


「別に、そういう感情は向けられ慣れてるからなんとも思わない。それに、男よりは女を振る方が相手も隠している事多いから対処しやすくて楽。ただ女であることを利用してさりげなくボディタッチしてきたり、着替えとか見てくるのは心底不愉快」

「大変だな〜。って、そうじゃなくて、女性と恋愛するのはありなのか聞いてるんですよ」


 チッ、上手く反らせてかつ牽制できたと思ったのに。


「知らないよそんなの。私好きな人出来たことないし。偏見はないから好きになったらありなんじゃないの。あんたこそ男は眼中に入るの?」

「俺は女が好きだから無しだな。俺にBL期待されても困る」


 誰がするか! お姉じゃあるまいし!


「でも俺顔良いし、流石に女子程じゃないけど男子からも告られたことあるからな。罪な男だよ俺は」


 すぐ側で自分の弟が男からも告られていたという言葉を聞いた悠優は一体どんな気持ちなのだろう。

 ……いや、自分も女が好きだから何も言えないか。


「じゃあ私は大罪人だよ」

「花恋罪犯したの?」


 毎度毎度変なところで誤解を招く言葉で乗っかってくるよこの人は。


「違うわ馬鹿。私の顔が良すぎてモテすぎるという暗喩」

「それだけ自信持って言えるくうさんの顔まじで気になるわ」

「花恋は綺麗な顔してるよ」


 正直綺麗な顔だけじゃ私の魅力を表すのに足りなさすぎる……うん?


「あんた私の顔見たことあるの?」

「うん。車乗せて貰った時に眩しいからサンバイザー開いたら花恋の写真落ちてきた」


 あの馬鹿お姉〜。いや、助手席ならお母さんの可能性の方が高い。

 て、そんなのどっちでもいいわ! どうしてこうも私の意に反して顔バレするんだ!

 ここまでして顔隠してるのが馬鹿馬鹿しくなる!


「怜、今すぐ私の顔に関する記憶消去して」

「どうして?」

「私が嫌なの」

「花恋綺麗な顔だから自信持って大丈夫だよ」


 ダメだこいつ話が通じない。


「だってくうさん、俺にも見せて」

「そうちゃん」


 悠優のその一言だけで調子に乗った笑顔がすぐに気まずい表情になった。

 やっぱり中学生は調子に乗りやすくて困る。


「はぁ……。まあ、昼休み顔を出せるようになると考えるしかないか」

「え、悠優ちゃん花恋ちゃんの顔見た事あるの?」

「てんちんも?」


 何、二人してこっち見て。別に私が隠さなかったわけじゃなくて全部事故とかお姉のせいじゃん。


「着いたよ」


 空気を読まない怜に呆れる時もあればごく稀に救われる時もある。

 今日は特にそれを実感できる日に間違いないだろう。

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