食べられたもんじゃない
それから数日、私達は本格的に文化祭準備に取り掛かり始めた。
「皆さん文化祭でパンケーキを出すとの事ですので、今日の調理実習はパンケーキを作りましょう」
私立特有の自由により、文化祭の出し物によってはこのように授業もそのクラス特有の内容に変化する。
「材料は用意してあるので、皆さん好きに使ってください」
流石は媚びと金があればある程度馬鹿でも入れる高校、材料が潤沢すぎる。
「はーあ、なーんでお前と同じ班なんだよ。席関係ない完全なくじ引きだってのに」
「うっさい。私だってお前みたいな非モテと同じ班とか最悪だわ」
「あーあ、天乃さんか安蘭樹さんの手作りが食べたかった。あそこの班二人揃っているとか神すぎだろ」
「いいよなくじ運いい奴は。俺らアンラッキー組は大人しくパンケーキだけでも味わおうな」
眼鏡へし折ってやろうかメガネ。なんで話したこともない奴に遠回しに悪く言われなきゃならないんだ。
「空瀬ちゃん、こいつら殴っていいよ」
「他人の手を汚させるな。あんたが殴ればいいじゃん」
「氷冬様の耳に入ったら怖い」
「あんたに興味なんてないよ」
「空瀬ちゃん経由で入っても困るし」
「絶対ない」
てかなんでこの裏切り者もいるんだ。席離れたはずなのに最悪だ。
無駄に話しかけてくる奴が集まったから、空気になれないじゃないか。
「いいからさっさと作ろうぜ。せめて早く作り終えて天乃さん達の班に遊びに行く」
「どうせならスフレパンケーキ作ろうよ」
「君らが作るならそうすればいい。反対はしない」
「なんでわたし達だけに押し付けるの」
達? 今達って言った? 私含まれてないよね?
「だって僕ら作れないし。な、持無」
「ああ。炭が食いたいってんなら作ってやるけど」
「ちょっと、女子が全員料理できると思わないでよ」
すごく嫌な予感がする。
「まさかお前、できないの?」
「当然。箱入り娘だもん、キッチンに立ったことなんてない!」
男子二人は絶望的な表情を浮かべ、女子も自分の言葉を振り返って段々と意気消沈していった。
「私達の班、作らない方がマシじゃない?」
「早く終わった班に材料渡して作ってもらおうぜ。全員で土下座して」
「そうするしかないか、はは」
なんでこいつらは私に料理ができるか聞いてこないのか。てかなんで私は料理ができないカウントに既に入れられてるのか、こいつらまじで一発ずつだけでもお見舞いしてやりたい。
でもまあ、それよりもいい案を非モテが出したから、それで許してあげよう。
私は調理道具と材料を手に取り、料理を始める。
「お、おい空瀬、何やってるんだ! 食べ物を無駄にするなって教わらなかったのか!」
「使ってるのは私の分だけだし、失敗しても私は食べるから無駄にしない。そもそも何もしなければ先生に怒られるじゃん」
それだけ言って、私は料理に集中する。
あとは焼くだけの工程。弱火でじっくり、長期戦覚悟で蓋をする。
そして約二十分、ふわふわスフレパンケーキの完成だ。
「お前、料理できるとか解釈不一致にも程があるだろ」
すごいデジャヴを感じるセリフ。
「できるならできるって言ってよ〜。わたしもスフレパンケーキ作って欲しい〜!」
「人は性格によらないもんだね」
何かごちゃごちゃ言っているが、私は無視して自分で作ったパンケーキとフォークを持って席に着く。
「おい空瀬、俺らのは?」
「何言ってんの? さっき言ってたじゃん、他の班に土下座して作ってもらうって。私には関係ないでしょ」
「い、いやそれは、悪かったよ空瀬。頼む、俺らのも作ってくれ!」
「お願いします空瀬さん、いや、空瀬様!」
「空瀬ちゃんお願い! この通り!」
「頭の位置が高すぎるんじゃないの?」
こいつまじかという目を向けられつつも、皆さらに深く頭を下げた。
「頼む、この通りだ。土下座は勘弁してくれ」
「お願いします」
「作ってください」
私は三人の方を向き、足を組む。
さりげなくスカートの中を見られるのを防ぐ為に。
「顔をあげたまえ。君らの誠意は分かった。ここは交換条件としよう」
「ど、どのような命を下されるのでしょうか……」
眼鏡のくせにノリいいな。
「私文化祭で接客したくないから、私がずっと調理班にいられるようにしてよ」
「分かった! それくらい任せて! むしろわたしも助かる!」
「おう! 文句言う奴がいたらどうにかしてやる!」
「僕も上手くシフト調整するよ」
「ちなみに今の録音したからね。約束破ったら優華達に聞かせるから」
「保険掛けすぎだろ。安心しろ、絶対に約束は守るから」
「じゃ、取引成立って事で。ちなみにスフレは作らないから。さっき作ってた時間考えたら分かるでしょ」
「いいよいいよ! 食べられるだけで嬉しい!」
ついでに片付けも三人に任せる事にし、私はパンケーキ作りに取り掛かった。
「うまっ。やば、めっちゃ美味い。俺こんな美味いの初めて食ったかも」
「トッピング言われた通り控えめにしたけど本当に美味しい」
「普通にこの味だけで売上一位狙えるレベル」
……まずい。
どうしよう、調子に乗ってスフレパンケーキを作ったけど、考えてみると私スフレパンケーキなんて食べた事ないから頭で味の補完ができない。
材料と分量からおおよその味を想定しているいつもの方法が、違和感ある食感のせいで使えない。
無理だ、これを食べ続けるのは苦行すぎる。
やめよう、お姉にでもあげよう。
「食べないの?」
「帰って食べる。ここだと味が落ちる」
「おい、俺らの顔見ながら言う事じゃないだろ」
「とにかく、今は食べない。先生に持ち帰りの箱でも貰ってくる」




