最悪の話し合いだ
怜は予鈴ですんなり帰るからまだいい。けど、優華と悠優、特に悠優は然程席が離れていないのをいいことにギリギリまでくっついている。
「悠優さっさと戻れ」
「え〜」
「えーじゃない。重すぎて足が折れる」
「大丈夫、ちゃんと毎日体重測ってるから」
「そんなのどうでもいい。あ、こら、やめろ、抱きつくな」
首に手を回してきた悠優を引き離そうと格闘していると、こちらをずっと見ていた隣の非モテが溜息を吐いた。
「非モテ、文句あんなら悠優に直接言って。目障りだって」
「ツッコミどころ多すぎだろ。俺持無だし。目障りどころか目の保養だし。はぁ、いいよなお前は。安蘭樹さんに抱きしめられて、天乃さんに触れられて、氷冬さんに懐かれて。お前みたいな性格悪い奴がどうしてそんな恵まれるんだ。俺なんて女子に親切にしても仲良くなるどころか見向きもされねえ。お前の隣で野郎に羨ましがられるけどよ、俺が欲しいのは野郎の羨望じゃなくて女子の好意なんだよ」
私だって欲しいのは人気者達からの好意じゃなくて孤独だわ。
「どうせ下心丸出しなんでしょ。警戒されるわそんなの」
「そんなんじゃねーよ!」
「まーまー、まだ高校一年生だからね〜これからだよ、これから〜。そー気を落とさないでね〜」
「安蘭樹さん……! 俺、頑張ります。ちなみに安蘭樹さんの好みのタイプはどんな人でしょうか」
こいつちゃっかりしてるな。周りの男共からも有益な情報すぎて抜け駆けと責めたくても責められないようにしている。
「そうだね〜、その気がなくても〜ゆーゆの事を助けてくれる顔の良い人かな〜。あとー、弟と妹に気に入られていること〜。ねーくうちん」
「私に振るな」
「高嶺の花って言われるだけあってやっぱ無理だよな〜。ちなみに空瀬は?」
「なんで私に振るの」
「ついでだし聞いとこうと思って。お前がなんて言うか想像つかねーし」
「ゆーゆもくうちんのタイプ知りたーい」
「ほら、安蘭樹さんもこう言ってる事だしな」
なんでこいつらに私が乗せられなきゃいけないんだ本当に。
「一生遊んで暮らせるお金を渡してくれて、私に一切執着しない人」
「夢物語すぎるだろ。まだ白馬に乗った王子様の方が希望あるレベルだわ」
「あんたに可愛い彼女できるよりかは希望あるわ」
「お前これ以上俺のハートを傷つけるな」
「じゃあ構うな」
「お前こそ、俺に羨ましい姿見せるなよ。お前が男だったら血涙流してるからな」
「勝手に流してろ」
「仲良いね〜」
変な事を言葉にする口を引っ張る。
「いひゃひゃ、やめへ〜」
「こいつと私のどこが仲良いって? 眼科行ってこい」
「おい! 安蘭樹さんの顔に傷がついたらどうする!」
「しょーしょー」
「どうもしない」
「お前な〜」
持無がまた何か文句を言ってこようとしたタイミングで先生が入ってきた。
「席着いてるわけないよね。どうせこの後話し合いの続きだからそのままでいいよ〜。その方が意見も出るでしょ。実行委員だけ前出て進めてね」
若い先生にありがちな余計な配慮のせいで、悠優が顔をニヤつかせた。
持無もガッツポーズしてるし。まじで地獄だ。
「だってーくうちん、よろしくね〜」
「うざ」
私の気持ちとは反対に、出し物の事が和気藹々とした空気の中順調に進んでいく。
「じゃあメニューはパンケーキということで」
「スフレパンケーキとか良くない?」
「いいじゃんいいじゃん! 絶対映えるし人気になるよ!」
一体このクラスの何人が失敗せずにスフレパンケーキを作れるというのだろうか。
そして、何人が文化祭では圧倒的不向きであるという事実に気づいているのであろうか。
「種類とか細かいのは一度作ってから決めよう。とりあえず大まかな店の装飾と役割を決めようか」
こうして、準備に取り掛かる為の話し合いは終わった。




